[コメント] 浮草物語(1934/日)
サイレント後期の小津作品だが、もう殆ど小津の特質をゆるぎない形で見ることができる。ローアングルと完璧なアクション繋ぎによる、或いは相似形を反復する画面によるこゝまでの画の安定感は今更ながら映画史上空前絶後だと感じ入る。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
戦後のリメイク版『浮草』は演者の豊かさにおいて、宮川一夫によるカラー撮影の色使いにおいて突出している傑作だが、本作も負けず劣らずの傑作だ。小津の画面構成のエッセンスを楽しむことができるという意味では本作の方が良いとも云える。サイレント期からの小津組常連の出演者達も、そりゃあトーキー版の鴈治郎、京、杉村、若尾といったカリスマ達と比べてしまうと見劣りする点はあるだろうが、実に良い仕事振りを残している。
まず、『東京の合唱』では聡明な母親を演じた八雲理恵子が良い。後に京マチ子がやることになる姐御役を貫禄たっぷりに演じている。また、リメイク版で若尾文子と川口浩が演じたカップル、坪内美子と三井秀男が瑞々しい。坪内美子は若尾文子ほどには性的魅力が感じられないが、また違ったしっとりしたムードを醸し出している。そして、後に『父ありき』で笠智衆と佐野周二によって焼きなおされることになる、坂本武と三井秀男の父子が渓流釣りをするシーンの反復運動の面白さ。このシーンもきわめて小津らしい幸福感溢れる演出だ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。