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[コメント] プラダを着た悪魔(2006/米)

清々しさに隠れてますが、実際はいろんな意味で応援歌に使える作品ですよ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 新世紀に入って以降、映画はCGを用いた大作志向となり、話題になるのはそう言った派手さを強調した作品が増えた。一方、文芸も細分化。微妙な精神に来る描写を使ったロード・ムービーっぽい作品が増えた。オスカーノミネートともなると、そう言う作品がずらっと並ぶようになる。いや、決してそれが悪いわけではない。むしろ私はそう言った両極端な作品が結構好きなタイプなのだが、しかし一方では、いわゆる「まともな」ハリウッドスタイルの作品の力がどんどん失われている気がして、それはそれで寂しい。

 そんな時に登場したのが本作。旧来のハリウッドスタイルを踏襲して幅広い客層に受けつつ、評価も高いという近年では結構珍しいタイプの作品だった。

 ただ、全く本作が古いかというと、全くそんなことはない。むしろ内容はかなり変わっている。主人公が悪辣な上司に対して復讐することはないし(ラストは復讐と言えば復讐だけど、意味合いが随分異なる)、スクリューボール・コメディのように恋のさや当てがあるわけでもない。更に面白いのは、主人公は最後まで何も得るものが無いのだ。むしろ失ったものの方が多い。

 ここでアンディはかなり色々なものを無くしてしまう。友達を失ったし、恋人とのギクシャクした関係は最後まで清算されない。流行の最先端からも取り残されることになるし、上司の信頼も最後に裏切ったことで失った。再就職先は冴えない出版社。外面的に見る限り、アンディは負けっ放しで終わってしまうのだ。しかしそれを全く感じさせず、物語を爽やかに終わらせる事が出来たのは、結局全てを失ったところで、彼女が得たものが何にも増して素晴らしいことだったと言う方向に持っていったことだろう。

 確かにアンディは色々なものを失ったが、ミランダについていくことで、人脈の生かし方や、ここぞと言うときの押しの大切さを知ったし、その上で自分が本当にやりたいことにもそれが活かせるという技術的なものを覚えた。更に自分が本当になりたかったものは何か。と言う事も知ることが出来た。目で見える色々なものを失いはしたけど、本当の人生を見つけた。これが一番の強さとして描かれていたからだろう。

 お陰であのラストシーンはからっとした清々しさを存分に感じさせてくれる。そう言う意味では大変上手い作品だと言える。

 ただ、本作の場合物語云々よりも強烈なストリープの個性を見ることの方に主眼がある。アカデミーの常連だけあって、この人の演技の幅はもの凄く広いけど、年齢を重ねた上での新しい魅力をしっかり作り上げてる。これを“貫禄”と見ることも出来るけど、むしろ今も尚新しい役柄に挑戦中というストリープの演技者としての凄さを物語っているかのようだ。それでしっかり新しい役柄をものにしてるんだから、この人はやっぱり凄いよ。

 一方、その強烈な個性を発揮するストリープに対抗してちゃんと自分の役を作っていったハサウェイも着実に良いキャリアを重ねていってる。ラストの笑顔は、本作を語る上で欠かすことの出来ないベストショット。あのショットがああ決まったからこそ、本作はぴたっとあるべき場所に治まったのだ。いわゆる負け組であることを何とも思っていない。むしろここからが本当の自分だ。というメッセージを表情だけで成し遂げることが出来たのだ。

 いろんな意味で応援歌として使える作品だから、ちょっと疲れを覚えてる人なんかにはぴったり来るんじゃないかな?

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)りかちゅ[*] 死ぬまでシネマ[*] Keita[*] シーチキン[*]

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