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[コメント] パプリカ(2006/日)

観る人によって評価が全然変わってしまうのが夢の描写でしょう。それ考えてるだけでなんか楽しくなってきます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 今年は筒井康隆の当たり年で、すでにアニメで『時をかける少女』(2006)が、そして実写で『日本以外全部沈没』(2006)が公開されている。そのどちらも劇場で観ることが出来たのはありがたかったし、今年最後の作品として本作を観ることが出来たのは、それこそ望外の喜びでもある。そもそも70年代のSFにかなりの思い入れがある私としては、それこそ小学生の時代から小松左京や豊田有恒、星新一、眉村卓、平井和正などと並んで図書館においてあった本を片っ端から読んでいたもの。特に著者の毒のある文章は、軽いトラウマと共に一種忘れえぬ思い出ともなっている。

 ただし、そんな著者が断筆宣言を行う直前まで描いていたのはSFではなかった。フロイト流の精神医学の世界へとどんどん傾倒していったのが分かる。だが、本作の原作に限っては本来の道に戻ったか、その精神医学の世界とSFが見事に融合した傑作となっている。少なくともこの原作に衝撃を受けた身としては、どんなことをしても本作は劇場で観てやる!と言う思いがあり、それができたのは、それこそ今年最後のボーナスみたいなものだ。

 さて、前置きが長くなってしまったが、映画としての本作はなかなか評するのに難しいところがある。原作ファンとしては、「ああ、あのシーンも入れてほしかった」とか、「あれをこうしてしまうのは違うんじゃねえの?」とか種々心の中でツッコミが入るところも確かにあるし、更に設定的に原作を読んでないと理解しにくいところも多い。色々複雑な思いがあるにはあるが、概ねにおいて、よくあの複雑な作品をここまで視覚的に解釈できたもんだ。と称賛したいところ。

 特に夢の描写は圧倒的で、原色の凄まじい色の本流と言い、突飛な夢の登場人物の訳のわからなさと言い、音楽の使い方と言い、質そのものは実に高い。悪夢を題材にしたアニメは数あれど、その描写に限って言えば最高峰と言えるだろう。確かに新しい描写とまでは言えないものばかりではあるが、ありものでの最高峰を目指した姿勢は正しいと思う。『千年女優』(2001)が邦画のオマージュを捧げた作品というのであれば、粉川刑事の夢はまさに洋画のオマージュに溢れている。

 私のように原作のファンでもあり、更に映画ジャンルの中で悪夢を描いた作品が何よりも好き!と言う人間の解釈として書かせてもらえれば、本作は本当に楽しく感じることはできる。

 ただ、それだけで終わらせられないのも本作の特徴だろう。何せ主題としているのは“夢”なのだ。そもそも夢と言うのはフロイトの解釈からしても、実に様々なヴァリエーションがあって、分析する人間でも多くの違いが生じるものだし、本作の解釈に関しても、「分かった!」というレベルがまるで違って当たり前。それを強く感じさせられる。

 お陰で色々と考えることが出来たよ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)りかちゅ[*] tkcrows[*] SUM[*] 不眠狂四郎 水那岐[*]

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