[コメント] ブラックブック(2006/オランダ=ベルギー=英=独)
レジスタンスに身を投じたヒロインの前に広がる薄暗闇。ヴァーホーヴェンの映画らしく、これは戦いの物語だ。その敵はナチでも裏切り者でもない。神なきこの世の不条理なのだ―
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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ナチスの鉤十字がもともとは十字架を模したものであることに象徴されるように、ヒロインの入り込んだ世界ではすべてが転倒している。
ナチ側にもレジスタンス側にも敵に通じる者がいる魑魅魍魎の世界。なかでも不条理なのが、ドイツ敗戦後にナチ協力者が入れられた収容所で、そこでは「解放された」オランダ人が「裏切った」オランダ人を、ナチ以上の酷さで虐待している。ここでのヴァーホーヴェンのヒロインへの仕打ちは容赦がない。裸にし、鞭打ち、頭から糞尿を浴びせる無茶苦茶ぶり。しかし、ヴァーホーヴェンはあえて倒錯的な描写をしているわけではない。彼にすれば、糞な現実を糞として描いただけなのだ。あくまでも彼の描きたいものは、不条理との戦いであり、そして、受難の物語なのだ。
ヒロインは復讐を成し遂げる。しかし、彼女に残されたものは地獄を見てしまった者の虚脱だけである。裏切り者の罪業を記した黒い手帳。そこに、誤って彼女の名が記されていることも有り得たのだ。ラストシーンに暗示されている通り、不条理の世界を生きる彼女のレジスタンスに終わりはないのだ。
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