[コメント] パッチギ! LOVE&PEACE(2007/日)
井筒監督のメッセージはあまりにも明確。パンフでも名前こそ出さないが明らかに石原慎太郎の『俺は、君のためにこそ死ににいく』を批判しており、作品内容も明らかな批判である(時期的に言って、見ないで批判しているのは明らかであるので、本当に批判となり得ているのかどうかは別問題であるが)。反右傾化映画、娯楽大作映画でここまで「進歩的」描写をやるのは時代の最先端だろうと、あーよくわかります。わかりすぎます。
前作とはまったく違う作品である。在日問題映画という点は共通しているが、視点は前作のような突き抜けたものというよりは、よりストレートな問題提起型。そして家族愛の映画になっている。それから、反戦映画であり、戦争賛美映画と反戦的描写の1944年戦争シーンを対比させる演出も、見事ではある(が、やりすぎ感はぬぐえない)。
戦争から逃れて生きて帰ってきたから命がある、と家族愛と反戦メッセージをつなげているのだが、そなもん、生きて帰れたかどうかはどっちにしろ偶然じゃねーかという大きな矛盾が隠れているなんて監督はまったく思いもしないのだろうか。
まぁ、明らかに開戦前から負け戦が決まっていたもの、結局戦争には負けて戦勝国の思想の戦略的注入政策へとつながった歴史が厳然としてある中で、「先人の命の代わりに今がある」という言説は、彼らが戦場に行ってなかったら今の日本はなかったかと命題を置き換えれば、今とは違う日本だったかもしれないが、別に日本はあっただろうという単純な疑問の前に私にはまったく意味不明な言説であるわけだが、こういう映画描写で「日本のやるべきこと」だと言われても、さすがにきれい事が過ぎるだろうという冷めはある。戦時中の過去の事実認定で論争になっている部分について、ある立場からは「誤解を招く描写」と言われるのが明らかなシーンもある。在日問題についての叫びも、メッセージがストレート過ぎるだけにわざとらしさも漂う。映画のメッセージを100%ストレートにはいそうですと感動することは私には出来なかった。
しかし、家族の映画でもある。それはそれでメロドラマに過ぎるが、家族愛の映画である。その点においてはストレートな描写の前には力負けしてしまった、泣きました。この映画が批判する思想だって、その方法論が違うだけである意味家族愛を大切にしようという思想に違いないわけだが、この映画はそういう立場は取らない。メッセージの直球勝負なわけだが、それでもこの親子間の、兄妹間の、叔母甥間のその他もろもろの家族への愛情をストレートに歌うこの映画の力は素直に認めよう。
余談だが、四三事件などが背景にあることがふれられているのだが、この辺になると詳しい状況を知らない観客も多かろうし、そこを知らないとそこの部分は感情移入しづらいだろうなという点は少し気になった。韓国の大戦直後の歴史については、もう少し日本人にも知られていいのだが難しいよなと思うところがある。その歴史があったからこそ、国籍を日本に変えない在日コリアンがこれだけの人数いる大きな理由の一つとなっているのだから。
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