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[コメント] スペースバンパイア(1985/英)

これはSF的要素を利用したダーク・ファンタジーなのだから、その悪夢的な造形美に魅せられるままに、科学性皆無の不条理なプロットへの無粋な文句は控えたい。だが恐怖物としては、マチルダ・メイの乳が映るたびに緊張感が弛むのが悩ましい。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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性的欲望を刺激される事は即バンパイア化を意味する訳で、映画の中では危険な事なのだけど、一観客としては、特に感情移入している訳でもない男どもが干物になっていく様を、マチルダさんの麗しい乳と交互に見せられるだけなので、緊迫感よりも乳の視覚的快感の方が優ってしまう面が多々。マチルダさんがもっと、金髪碧眼のマネキン人形風の記号的なセクシーさの持ち主であれば乳も記号として見ていられた筈なのだが、黒髪に白い肌の清楚な容姿にピンクのパフィー・ニップルの乳では、必要以上に気になって、映画に集中できないので勘弁して下さい。

この映画の本質的な危なさは、女バンパイアが精神病院の院長に憑りついてカールセンに迫る場面に表れている気がする。この場面、気味が悪いと同時に笑えてきもするので、恐怖映画としてのこの作品自体をも危うくしている観がある。「私たちには肉体は関係無いの」、「貴方の心の底に在る理想の女になったのよ」と言うバンパイアは、性的幻想の供給源たるリビドーそのものであり、人々を、精力に飢えた、見境なしの乱交状態に巻き込むサキュバス(夢魔)だ。

ハレー彗星の傍で発見された巨大宇宙船の内部は、体内のような空洞が続き、カールセンが口にする「何か懐かしい気分だ」という言葉の通り、胎内潜りのイメージだ。つまり、マチルダさんの乳以前に既に、乳以上にダイレクトな性的映像が展開していたのだと、後から気づかされてしまう訳で。宇宙への旅=胎内回帰という、人間の性(さが)。或る意味、『2001年宇宙の旅』風のインナースペース的設定と言えなくもない、か?

最後の、互いの体を刺し貫いて‘昇天’する二人、というのも、何というか、アレだな、と。地上で阿鼻叫喚の餓鬼状態に追いやられた人間どもの惨状も、この最後の、大気圏を突き抜けるほどのエクスタシーを盛り上げる為の、人柱だったように思える。

物語自体も、勢いだけを推進力にしている観がある。エンドロールで再び流れるテーマ曲の勇壮さに一抹の虚脱感を覚えるのも、リビドーの昇華の果ての虚しさに似ているのかもしれない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)DSCH Orpheus ナム太郎[*] ジョー・チップ Myurakz[*]

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