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[コメント] 怪談(2007/日)

驚くほど面白い話でした。ラストの浜崎あゆみの歌を除けば。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 三遊亭円朝の講壇「真景累ケ淵」を、いわゆるJ−ホラーを作り出した中田秀夫が映画化。オリジナルは演じるのに八時間以上はかかると言われるが、かなりの人気があるらしく、これまで既に三回にわたって映画化され、何度かテレビでも作られている。その中で私が観たことがあるのは安田公義監督による『怪談累が渕』(1970)のみだが、これは今ひとつ。怪談に必要なのは、単純な恐怖ではなく、情と怨。それをビジュアルに頼らぬ口で語るからこそ怖くなる。言ってしまえば映像化させると急に陳腐化してしまうのだ。

 新しく映画化したとしてもどうせ陳腐であろうとも思ったし、中田秀夫監督は『リング』(1998)の大ヒットのお陰で世界的にホラー監督として有名にはなったが時代劇は初挑戦。事前にマイナス要素が二つもあり。

 しかし、見事にこのマイナス要素を超えたものが作られている。

 物語はちょっと早足で、やや間がおかしいところがあるとはいえ、原作の物語を詰め込まねばならなかったため仕方ないところはあるし、なんで尾上菊之助がこんなにもてるの?と言う違和感があるけど、まあ、これはその時その時に誠心誠意女性に尽くすという男性像なのだろうからこれも良し(『東海道四谷怪談』(1959)の天知茂くらいの個性があればキャラも満点だったんだが)。むしろ本作は多彩な女性陣のそれぞれの魅力を引き出せた中田監督の上手さを褒めるべきだろう。黒木瞳、井上真央、麻生久美子、木村多江、瀬戸朝香と、これだけのキャラをそれぞれくっきりとキャラ分けして個性をちゃんと出している。一人一人性格を違ってみせることで、物語のメリハリが活きてくる。正直中田監督はキャラ描写が下手だとばかり思っていたので、これは驚かされる。

 そして何より良かったのが演出。

 怪談とホラーの違いというのは、情と怨の絡み具合。お化けやショック要素など無くとも、情の強い女性が怨みに思って死んだ。と言うだけで物語を成り立たせられるのが怪談であろう。怪談で最も恐ろしい演出は女性の愛情表現なのである。

 勿論本作は恐怖シーンもふんだんに使われているとはいえ、それらがただびっくりさせようとさせようと言うのではなく、ねっとりとした女性の情の強さに見せるのが特徴。やりすぎるとおどろおどろしさばかりが強調されるものだが(それこそ『怪談累が渕』(1970)が典型的な例)、そこをJ−ホラー風にさらりと流すことで、バランスがほどよく取っているし、CGの使い方もほどよいアクセントになってる。ショックシーンもいくつかあるのだが、この使い方も上手い。いかにも「来るぞ来るぞ」という時に来るのではなく、観客がぐぐっと画面に引き込まれているその瞬間に軽くとんっと言った具合に出してくれるので、のけぞるほどではないが、瞬間的に心臓がどきっと跳ね上がる。恐怖の演出に関しては怪談映画の中では最高峰と言っても良いだろう。終わり方も怖さではなく、きちんと「愛」に持っていく。上手い上手い。『リング』からとなる川井憲次の音楽も抑えが効いてる。

 ただ、余韻については大きな問題がある。

 褒めるところが本当に多く、とても心地よかったのだが、最後の浜崎あゆみの歌には参った。あれじゃ余韻も何も全部ぶちこわしてくれている。これは蛇足どころの話じゃなく、映画の評価を下げるだけ。ホラー作品にありがちな最後のサプライズもないので、映画館で観る場合、終わったら歌を聴かずに立ち上がることをお勧めする(実際最後まで観てたのは私くらいだった)。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)りかちゅ[*] 小紫 林田乃丞[*] Lacan,J[*] 動物園のクマ Master[*]

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