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[コメント] 長江哀歌(2006/中国)

画面から溢れ出す緊張感に圧倒される。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







大袈裟に言えば、かつて衝撃を受けたアンドレイ・タルコフスキーと同じ、あるいはそれ以上の衝撃を受けた。彼もソビエトからロシアに変遷する時代の中で短い命を終わらせた芸術家であったが、ジャ・ジャンクーのこの映像を見て想像する限り、彼もまた時代の”崩壊”の中であえいでいるように思える。

映画そのものはややこしい話ではない。しかも題材もそれほど驚くべきものでもない。しかしながら、この映像の詩的なこと、そして民族表現のリアルなこと、そしてまた何といってもこの映画に登場する人物の顔、そのギラギラした顔、肉体など、これらの意味するものを重く受け止めたい。

物語は二人の人物を中心に進む。一人は男、一人は女。それぞれが妻と夫を捜しにやってくる。そしてその過程でいろいろな人物と巡り合う。結果、再開した連れ合いに対し何の手を打つこともなく、また結果を変化させることもなくその場を去る。

ラストで廃屋の窓の向こうで大きなビルが崩壊する。

このシーンだけでこの映画のすべてを語ってしまう。衝撃的なワンシーンである。

この窓の向こうのビルが崩壊するシーンこそ、この映画で最も言いたかったことではないか。

中国が長い長い悠久の歴史で、何ら変わることのない風景や時代を積み重ねてきた歴史が、ほんの一瞬で崩れゆくことを示しているように思える。この風景の崩壊は家族の崩壊をもたらし、男女の関係を崩し、人々の生活を破壊する。それが一瞬のことであることを言いたいようだ。

ジャ・ジャンクー』作品を初めて見るので、過去の作品を知らないが、カメラの向こうの人物像が正直であることに驚かされる。そしてそのカメラの動き、ワンシーンの緊張感。この緊張感が映画全体を覆っている。

前述のとおり、かつてタルコフスキーが求めた世界である。北野武の映像にも意識してこの映像が使われる。このシーンの長回しは、役者に緊張感を与え、そしてその奥に彼らが表現しようとする世界の真実を物語る。

衝撃の映画だった。

(評価:★5)

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