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[コメント] パンズ・ラビリンス(2006/メキシコ=スペイン)

傑作。純粋なファンタジーであると同時に気持ち悪さと痛さの感覚が共存する、複雑さというか重層性が一筋縄ではいかない面白さだ。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 まずは登場するクリーチャーの気味悪さが目を惹く。或いはスペイン内戦を舞台に『シンドラーのリスト』のレイフ・ファインズを想起させる極めつけの悪役・ヴィダル大尉−セルジ・ロペスを配し、フェアリー・テールでありながら流血、殺傷、拷問といった極限状況が対比的に描かれると云う意味での複雑さを上げることができる。だが、そもそも主人公の少女オフェリアが変な女の子で、彼女が気色悪い画面をどんどん導いていく。冒頭のカマキリのようなナナフシのような気持ち悪い昆虫を追いかけ回すシーンでこの少女のリアリティは半ば失われてしまう。その後も「普通ならやらないだろ」という行動ばかり取る。その最たる部分が、掌に目のある食人鬼・ペイルマンを前にして葡萄を食べてしまうところなのだが、他にもこのような常識(映画のヒロインとしての常識的行動)を欠く部分は無数にある。しかしだ、しかしなのだ。このような主人公の納得性を損なう行動についても多くの観客は受容させられるようにできている。それは、演出によって有無を言わさずハラハラドキドキさせられてしまうからであり、或いは卓越した美術・装置によってファンタジーとして楽しめてしまう、つまり映画的現実として受け入れてしまうからだ。

 あと、この映画は妊娠、出産或いは殺傷や拷問といった暴力を描いても、男女の直截的な性交渉は描かないというポリシーがあるようだ。(いや、セックスはおろか男女間の愛情さえ描かれないのだが。)そこがファンタジーとしてのある種の曇り無さと透徹した冷たさに繋がっている。ファンタジーの純度を高めている。例えばメイドのメルセデス−マリベル・ベルドゥと弟との肉親としての情愛は描かれるのだが、作劇としてこれが弟ではなくフィアンセであってもいいし、であれば性的な場面も挿入できただろうと思ってしまう。或いは、これも私だけかも知れないが、メルセデスがヴィダル大尉に乱暴されるのではないかとドキドキしながら見ていたのだが、そんなプロットが繋がれる気配は微塵も無い。この潔癖さは、男女の性は少女オフェリアの幻想の範疇外、もっと云えば拒絶対象なのだ、という解釈もできるが(「将来子供なんか産みたくない」という科白もあるし)、ま、そんな穿鑿よりは、単純にエンディングの昇華をもたらす効果という観点で語りたいと思う。ラストはとびっきり美しいハッピー・エンディングだ。

(評価:★5)

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