[コメント] 大統領暗殺(2006/英)
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確かにいかに公職にあるとはいえ、「現存する個人が暗殺された」と仮定して映画を撮ることの是非は論じられるべきことだとは思う。だがその上でこの映画は、そういう仮定を、決してセンセーショナルなものとして、あるいはそれだけを目的としては扱っていないということも言えるのではないか。
事件後の、シークレットサービス、FBIの捜査関係者、ジャーナリスト、事件直後に容疑者とみなされ拘束された人物、またそれらの人々の身内、などへの「インタビューと再現フィルム」という手法も、まるで「大統領暗殺一周年特別報道番組」を見ているかのような錯覚を起こさせて成功し、あたかもこれから先1年程度の現実的未来の推移を見るかのようでもある。
その大きな要因の一つが、「現存する個人が暗殺された」という仮定によっていることは間違いないだろう。これがいかに劇中の暗殺時刻を2007年10月などに設定しても「ジョン・スミス米大統領暗殺さる」では、せいぜい良くできたポリティカルサスペンスの域を出ないかもしれないし、そうなるとアクションシーンの皆無な本作は、凡作として埋もれてしまう可能性も少なくないだろう。
ただそういう「仮定」を云々することよりも、もしアメリカでこういう事件が起こったら愛国者法の「強化」という警察権力の拡大がもたらされるのでは、というこの映画の指摘こそ重要なことではないだろうか。
「大統領暗殺」というショッキングで人間の生命にかかわる大事件でなくても、それ以外のもっと「軽い」、ちょっとした出来事、未遂事件の類でも同じ様に、警察権力の拡大や、イスラム教への偏見、圧迫の強化、「テロ戦争での勝利」を掲げたもろもろの政策の遂行のようなことがもたらされるのではないか、と示唆をしている。
この映画は、挑発的なスタイルをとってはいるが、その実、我々はすぐにアルカイダやらのイスラム教系テロリストを敵だと決めつけるが、その実態はこういうものかもしれないじゃないか、もっと冷静に今の社会の現状を考えるべきではないかという警鐘を乱打しているのではないだろうか。
この点では、見かけの派手さ以上にずしりと重い映画であった。
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