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[コメント] ボーン・アルティメイタム(2007/米)

ストーリーよりも、作り手のチャレンジ精神を評価する。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ソダーバーグの作品にも共通するのだが、この作品の監督ポール・グリーングラスも、かつてのハリウッド映画と意識が異なる特性があるようだ。それは技術の進化にも伴うものだが、とにかくカメラが”ゆれる”ということ。

カメラの”ゆれ”は、登場人物の心理描写のゆれと、映画そのもののドキュメンタリー性を高める効果をもたらしている。この映画もやたらとカメラがゆれて、しかもスクリーンの大半を人物の陰が邪魔をしている。かつてのハリウッド映画では邪道だ。これだけの大スクリーンの大半を黒い影が覆うのである。邪道そのものだ。

しかしポール・グリーングラスは敢えてそれを意識しつつ映画を撮っている。前作『ボーン・スプレマシー』の時も気になったことだが、本作との間に『ユナイテッド93』を作ることによって、彼は映画のドキュメンタリー性をより強調するようになった。

前作『ボーン・スプレマシー』の最後、ロシアでの激闘の後が本作の始まりとなっている。その後彼が自分の記憶を取り戻すまでの話しであるが、正直言ってストーリーはありふれている。というより、これ以上の結末はない。いわば『スターウォーズ』のようなもので、わかりきった結末を観客は楽しみにしているのだ。従って、話しとしての結末には驚きも何もない。そういう終わりを見るために観客はこの主人公の行方を確認するだけのために映画館へ足を運ぶのだ。

ところが、このわかりきった結末までを見事に飽きることなく見せる技術は立派だ。ロシアからロンドン、パリ、マドリッドからモロッコ、そしてニューヨークでの最終決戦。それは正に自分探しに相応しい結末であり、そこに至るまでのボーンの見事な判断力と瞬発力をみせつけられる。

途中前作でめぐり合うCIAのニッキー(ジュリア・スタイルズ)とのエピソードが、ややソフトな面を持たせているが、それ以外はほとんどアクションの連続。ニッキーと二人で夜のレストランでコーヒーを飲むシーンもドキュメンタリー的だ。彼女の目がクローズアップとなり、流れそうで流れない涙を大写しする。ボーンが記憶を失う前のニッキーとの関係を創造させる。

それにしても特撮なくして成り立たないといわれるハリウッド映画で、ここまで実写のアクションに挑戦した精神性は評価できる。カメラのゆれと実写という2点にこだわることで、このような絶対にありえない人物、間違えればバットマンやスーパーマンになってしまう陳腐さを見事に回避して、真実味を出すことに成功している。カーチェイスのシーンは『フレンチ・コネクション』を思わせるほどの圧巻で、正に手に汗を握るようなシーンが続く。

俳優陣も素晴らしい。『グッドナイト&グッドラック』で見事にエド・マローを演じきったデビッド・ストラザーンを悪役に仕立てたところが面白い。エド・マローと全く異なる役を演じることで、その対比性が楽しい。

ボーンが最後に自分の記憶を取り戻す重要なシーンで対峙する博士の役にアルバート・フィニーを使っているところにも感謝したい。彼は1974年『オリエント急行殺人事件』でポアロの役をやった名優だ。『エリン・ブロコビッチ』の弁護士役で久々に注目され、最近では『オーシャンズ12』にも出演していた。こういうかつての名優が味のある演技を見せてくれるところにハリウッドの奥深さを感じる。

全体的に凡庸な映画ではあるが、作り手の熱意には敬意を表する。

(評価:★3)

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