[コメント] 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(2007/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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若松孝二というと大島渚を思い出します。大島監督がレビューで、『愛のコリーダ』を製作するときに、若松監督を紹介され、「彼と組んでこの映画は勝った」と思ったと書いています。
それほどまでに大島監督は若松監督の素質と実力を評価されていたんですね。
その若松監督の集大成となったのがこの映画です。彼の人脈と略歴から、この時代のこの集団について、より生々しく、より厳しく、現実的に表現する機会はこの時以外にない。そしてそれができるのはきっと若松監督以外にいない。そう思わせる凄味のある映画でした。
この映画では二つのトピックスがありますね。
ひとつは、”連合赤軍”の内部を克明に描いた初めてで唯一の映画であるということ。こう書くと当たり前のように聞こえますが、これこそ新興宗教以上のファッショ。そしてカルト集団的な世界ですよね。これが日本の1960年代や70年代をリードした左翼集団の最も最悪な集団であることを知っている方なら、よくぞここまで彼らの内実を描けたものだと驚かれるはずです。
「異議なし!」
とういう号令に導かれて、誰ひとりリーダーに反論できない。こんな理不尽で非民主的な世界があるでしょうか。ところが、ですよ、こういう思想に多くの若者がたなびいていた事実が恐ろしいですよね。どんどん殺され、どんどん死んでゆきますね。これは正にカルトです。当時、彼らのことをヒーロー扱いしていた学生や社会人の方はこの映画をどのような気持ちで見るのでしょうか。
そういう立体感の中で見る映画ですね。たぶん若松監督以外、誰も撮ることができない映画ですね。
もう一つのトピックスは、後半、特に最後の方は原田眞人監督の『突入せよ! 「あさま山荘」事件』と呼応している点です。これは実に面白かった。
『突入せよ! 「あさま山荘」事件』は、警察側の映画ですね。テロとか赤軍が籠城するという前代未聞の事件に遭遇して、警察は何もできない。その裏で、警察内部の醜い権力闘争や縄張り争いなどが繰り広げられて、ばかばかしいほど情けない警察官僚の姿が浮きぼりにされましたね。この映画のアンチテーゼ。対比としての面白さがありますね。この2本をセットで鑑賞すると、当時の様々な政治思想が映し出されますね。
当時(1972年)は大阪万国博覧会が終わって2年後。札幌オリンピックが開かれた年ですね。7月に田中角栄さんが首相になった年でもあります。つまり”日本列島改造”がうたわれようとしている時代であって、まさに社会主義や共産主義が日本の思想から離れてゆく、そしてその思想が加速し始めた年ですね。
ということは、ここに出てくる”連合赤軍”は明らかに追い詰めらていた。そして警察や治安当局は彼らを完全に追い詰めていた。そのせめぎ合いが見える瞬間でもあるわけです。
この映画が最後に伝えるのは、今の日本の国がいつでもこういうカルト思想におかされてしまう可能性があるということ。そして、そんな社会に埋没してしまうと、いつの間にか悪いと思っていることすら伝えることができず、しかも自らの命と引き換えに集団に埋没せざるをえない可能性があるということ。それは、もしかしたら、日本という国全体に言えることではないか?という提言であるということ。そんな思いを胸の奥に響かせる作品でしたね。
でもですね、私としては、この映画を評価するのには、少し世代が若い?ような気がします。この映画を見て、本当に辛い思いをする方も多いと思いますが、今少し臨場感に欠ける作品でした。
映画そのものより、連合赤軍という集団に対する怒りに震えて、どうしても受け入れることができませんでした。
作品として、というより、実態として辛い映画でした。
2009/04/01
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