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[コメント] シューテム・アップ(2007/米)

頑なにスジを通し続ける映画。一切のブレはない。馬鹿だけど。
アブサン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







主人公は、銃と銃社会を憎みながらも銃の扱いが天才的で、それしか才能がないという悲しい人間だ。だから彼はどんな状況でも、出産を手伝うときも赤ん坊を守るときも交通違反を注意するときも、たとえ銃を便器に落としたときでも洗って乾かして生真面目に銃を撃ち続けるのだ。

そんな彼が、最後の戦いではすべての指を折られ、銃の扱いを封じられてしまう。彼はどうするか。

銃弾を持った手を火に突っ込み、己の肉体を銃にするのである。

ものすごく馬鹿な必殺技だし馬鹿な主人公なのだが、馬鹿な映画だからこそ、ブレずに最後まで馬鹿な設定にこだわり、生真面目にスジを通し続けることが大事なのだ。だから馬鹿な映画でありながらも、ラストが感動するほどかっこいいのだ。そこまでして銃にすがり続ける主人公に、凄味と哀しさが生まれるのだ。最後に銃以外の方法で敵を倒しては、台無しなのである。

チビデブインテリ悪人でありながら家族思いの敵も、最後まで家族への優しい顔は崩さないで死ぬ。ここでも真面目にバカを通し続ける。クライヴ・オーウェンが真顔のまま人参で人を殺したりと本当に馬鹿な映画なのだが、こういう生真面目さがあると、何やら彼の悲哀にも深みが生まれる。

これだけ銃をテーマにしておきながら銃についての知識は適当(拳銃は便器に落としても洗って乾かさなくていいそうです)というのも、実によくわかっている。そうだよな、俺たちはフィクションのかっこよくてバカバカしい銃撃戦が好きなのであって、現実の銃なんて二の次でいいんだよな。この内容で銃社会反対というのもすごい話なのだが、この逆説を踏まえると、なんだか説得力がある気さえしてくる。

メインがしっかりしていると細部も光るもので、一瞬しか出てこないTバックのコスプレシスターは妙に記憶に残るし、最後の必殺技が『続・荒野の用心棒』の捨て身の十字架撃ちっぽいのもまたいいなあなんて思ってしまうものだ。

制作者は常にアクションの知恵を絞っていて、オープニングの銃撃戦でドラム缶を撃った時は安直に爆発させるのかと思いきや、漏れた油の上をツルルーと滑っていく予想外の展開で、これを見た瞬間にもう信頼できる映画だなとわかった。かっちょいいロングコートに身を包みながらも、そのコートを汚すことを厭わないという宣言だ。

真剣に考えないと思いつけないような馬鹿馬鹿しいアイデアが目白押しで監督は本当によくわかっている。駅弁しながらの銃撃戦でも面白真顔を一切崩さないクライヴ・オーウェンも、大変えらい。

(評価:★5)

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