不満を云えば、長男の「不在」の描き方がいささか露骨に過ぎる（「不在」をめぐる映画を撮るにあたって小津を参照する仕方もやや露骨ですね。列車・医者・海・記念撮影・「剣道辞めたよー」という云い方の島津雅彦性、等々。「不在」者の妻＝原節子をいっさい登場させなかったのは、さすがに慎みというか常識的判断が働いたのでしょうか）。死んだ長男の写真なんてさりげなくワンカットまぎれこませればそれでじゅうぶんではないか。樹木希林が長男の名を呼びながら蝶を追うシーンもちょっと醜悪だ。人間の醜悪さを描いていること自体が問題なのではもちろんない。私が云っているのは、描き方までもが醜悪になっているのではないかということだ。またここに限らず、是枝の演出は樹木の独創性を誤って理解しているように思われる。むろん「不在」を中心として展開する物語であるのだから（戦後小津のような「不在」を通奏低音とした映画ではないのだから）その露骨さ（≒醜悪さ≒厭らしさ）はある程度仕方のないことではあるし、それこそが是枝の持ち味でもあるのだろうが、私の趣味とはちょっと相容れない。

中年と云って差し支えない年齢でありながらじゅうぶんに美しく、平凡な市井人を演じても違和感を与えないが華も失わない――夏川結衣は今の日本映画には貴重な女優だろう。