[コメント] 崖の上のポニョ(2008/日)
アカデミー選考委員を辞退したあたりで宮崎は気づいていたのかもしれない。アニメを愛し、アニメに目を輝かせる子供たちを愛し、そのために過酷な制作環境を改善するべくアニメの地位を上げるために跳ね上げ続けたクオリティが、いつしかもっともアニメを愛した子供たちを置き去りにしていたことを。
近年のジブリアニメはどれも名作である。しかしそれらを真っ先に讃えるのは子供たちの親である大人たちだ。そして子供たちはそれに追従しているだけだ。これは断言してもいい。
アニメを駄作呼ばわりするとき「ガキ向け」と真顔で言う人たちがいる。しかしアニメとは元々「ガキ向けお子様ランチ」だったのだ。レストランでメニューを選ぶときに、チラっとそれが目について、ウェイトレスに「すみません…お子様ランチ…いいですか?あ、ダメ?あっそう」と頭をポリポリ掻く。大人がアニメを楽しむというのは、多少の羞恥心を伴いながらの密かな楽しみだったのだ。
それが大人がアニメを大手をふるって見られるようになり、「ガキ向け」という蔑称すら成立するようになり、市場が活性化してその中でジブリはブランド化して「アート」にすらなっていった。
宮崎はその閉塞感の正体に気づき、なおかつその恩恵をこうむっているジレンマに苦しみ、突破口というよりは軟着陸する地点がこの『ポニョ』だったんだろうと思う。 もちろん映像は大迫力のお芸術だし音楽もおなじみの久石メロディだが、そこにあるのは「みんなになつやすみのたのしいおもいでをどうぞ」というメッセージだった。
「あのシーンの暗示しているものは」とか「あそこの処理は」とか、小難しい評価なんかいらない。宮崎は子供たちの高揚した笑顔を望んだのだ。
なのでこの映画の最大のほめ言葉は「子供たちが見終わっても興奮して大喜びでした」なんだろうなあ。「ガキ向け」上等じゃないか。
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