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[コメント] 落下の王国(2006/インド=米=英)

青年の挫折と成長物語。少女の夢想と現実界をめぐるファンタジー。世界遺産の造形美に対する畏怖。活劇映画へのオマージュ。しこたま詰め込まれたターセムの思いの丈が随所で見る者の気を引くが、その集合物の未消化ぶりに食傷感を覚えるのもまた事実。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







好きな部分。モノクロタイトルシーンの、大胆な省略とワンショットごとの密度の濃さ。アレクサンドリア(カティンカ・ウンタルー)の風体が醸し出す年齢に似合わぬふてぶてしさと、底の浅い子どもならではの言動の微笑ましさ。閉鎖空間としての病院内での看護士(ジャスティン・ワデル)や入れ歯爺さん、悪魔のレントゲン技師らの陰と、鍵穴を通して反転活写される馬車や氷売りらが行き交う陽としての院外世界の対比。世界遺産の絶景にコラージュのごとく配置された、マヌケな復讐戦士のコミカルさと、良い意味で現実を突き抜けたいつもながらの石岡瑛子の衣装。

不満な部分。映し出すことに意義を見い出し、それが目的化してしまったかのように執拗に続く観光案内的遺産めぐり。さらに、奇景や絶景を取り込むこと以外に、大した工夫の見当たらない活劇としての復讐戦士物語の単調さ。メインストーリーにおける、子どもをだます大人としてのロイ(リー・ペイス)の、内面描写の淡白さに起因すると思われる、彼自身の空想譚やアレクサンドリア視点の院内ドラマに対するかかわり方の深みのなさ。最後に、すでに先人の功として完成された(抜群に面白い)サイレント活劇を、自作の締めに平然と垂れ流して客のウケを狙う安易な素人臭さ。

要は映像の構築力には目を見張る非凡な才能を見うけるが、丹念かつ精緻に映画的物語をつむぐ努力が足りていない。前者は発散と制御であり、後者は構築と統制だ。次回作に期待してます。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)緑雨[*] ジェリー[*] Myurakz[*]

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