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[コメント] ブラインドネス(2008/カナダ=ブラジル=日)

隔離収容所の次第に荒廃してゆくさまや廃墟趣味フルスロットルな外界の造型が期待に応える出来で嬉しく、教会シーンではフライシャーソイレント・グリーン』が脳裏をよぎる。自動車・飛行機事故のショットはただの資料映像だろうが力強くて驚く。白みを強めたルックも適当な選択だろう。
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**ネタバレ注意**
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極限状況に置かれた人間の醜さを描いたとするには徹底性に欠け、主人公たちの間に結ばれる絆は御都合主義的な幸運に支えられているに過ぎないのだから、人間の強さや偉大を説いているわけでもない。(消極的に)特殊能力を与えられた(に等しい)ジュリアン・ムーアの運命を凝視しているというのも違う。また、発病とその回復およびムーアのみが病から免れていることの原因が不問に付されていること、固有の役名が存在しないこと(たとえばマーク・ラファロは“Doctor”、伊勢谷友介は“First Blind Man”)などからも、これがあくまでも寓話として語られていることは明らかであり、「全員失明」という荒唐無稽な事態に陥った世界の精緻なシミュレーションと云うこともできない。したがって、テーマの消化という観点からは少なからず不満が残り、あるいは作り手の意図はもう少し別のところにあったのかもしれないとも思わせるが、作り手の意図なんか知ったことか、という立場の観客である私からすれば、これはただはじめに述べたような美点を持った映画として楽しんでおきたい。

結末部における視力を回復した伊勢谷の、手持ちカメラによる主観ショットも感動的と云ってよいだろう。それは「手持ちカメラによる主観ショット」が時宜を得て効果的であるからではまったくなく、その画面に刻まれた木村佳乃らの笑顔のためだ。純粋な喜びと祝福に溢れたきわめて純度の高い笑顔たち。私はそういう笑顔が好きだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)林田乃丞[*] 緑雨[*]

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