[コメント] ベンジャミン・バトン 数奇な人生(2008/米)
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本作は設定の奇異さで一見SFのような御伽噺のような作品のように思われている。事実その意味合いも確かにあるのだが、本作はそんな設定を使わず、普通に生まれ、普通に死んでいく人間の普通の物語としても充分観られるだけの、きちんとした作品に仕上げられてる。実際本作は一生をかけた本物の純愛物語で、一人の男に愛され、一人の男を愛した物語としても良かろう。設定主観でで御伽噺のような作品とは思わず、年齢を重ねつつ純愛を貫き通した男と女の物語として観るべき作品だろう。
…ちょっと前段落でおかしな事を書いたけど、私が観るに、これはベンジャミン・バトンという人間を主観に描いた作品では無い。本作の主人公は実はベンジャミンではなく、デイジーの方であり、彼女が一生をかけて愛した人物を、彼女の目で観た作品なのだから。
本作を通してみると、実はベンジャミン自身は本当に長くつきあった人物があまりにも少ない。ベンジャミンのその一生というか、半生を見た人物というのは、実は家族とデイジーの二人だけ。後はその年齢その年齢でほんのわずかふれ合った人物しかいない(実の父親でさえ、現れたのは人生のほんの一瞬に過ぎない)。ベンジャミンにとって、成長の逆転現象を知られてる人物はあまりにも少ないし、他に例が無いので、ベンジャミンの心を描くことは、ちょっと出来ない。本作で描かれるのは、そんなベンジャミンを愛した一人の女性の心の動きの方がむしろ主眼になってるんじゃないだろうか?実際その方が物語のバランスとしては正しいし、観てる側も共感を持って見ることが出来るのだから。
その辺をきちんと分かってそれを映画にしたというフィンチャーは、やっぱり一流映画人としてしっかり成長してるんだな。少なくとも3時間近い(しかもありきたりな)物語を、飽きさせずにちゃんと見させる技術を習得してるんだから。
フィンチャーの出世作は『セブン』で、そのソリッドな映像技術で有名になった監督だが、そう言ったアクションやサスペンスと言った技法をかなり抑え(その分二つの世界大戦の描写は異様に力入ってるけど)、人間を撮るという当たり前で、とても難しい部分に力を注いでる。改めて思うに、本当にフィンチャーは上手くなった。
ところで本作は何かに付け、ブラッド・ピットが老人から青年までを演じると言うことで語られてきた。実際、CGにより、60歳くらいの老人役であっても、20代そこそこの、まるで『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992)の時を思わせる見事な造形を行っていた。ほんと、これを違和感無しに描けてるってだけでも今のCG技術の凄さを思わせられる。
ただ、これも一方では、10代から90代くらいまでを演じていたブランシェットの方に私は軍配を上げたい。この年齢幅は女性としてはかなり厳しい撮影になったはずだけど、それを真っ正面から受けて立ったブランシェットの役者魂には頭が下がる。
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