[コメント] ベンジャミン・バトン 数奇な人生(2008/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
具体的に云おう。たとえば、若さを手に入れつつある老体で外の世界に旅立つ十七歳の少年。それを見送る、見た目の上では彼よりはるかに若い母親。かつてこのような人々の感情が映画に描かれたことがあっただろうか。もちろんそこだけではない。ピットと、彼に関係するすべての人の感情が映画史上初めて描かれたものだと云いたくなる。止まらぬ若返りのために家族の元を去り、娘の五歳の誕生日に「君の入学式に行きたかった」という手紙を書かざるをえない男の感情を誰が想像しえただろうか。こう云うと、そのような状況を用意した脚本家なり原作者なりの功績を云っているように聞こえるかもしれない。もちろんそういった面もあるけれども、そのような奇想を堅実に画面上に具体化させたフィンチャーの演出力こそを評価しなければならない。奇想、それは荒唐無稽と云ってもよい。「映画」とは荒唐無稽を具体化したものにほかならないのではなかったか。ここで「具体化」とは「行動」であり「身振り」であり「表情」である。
さて、ほかにこの映画のよさについて箇条書き的に書けば、凡百の戦争映画などまるで歯が立たぬほどの迫力に満ちた海上戦闘シーン(画面手前に迫ってくる「光の線」として描かれる弾道がすばらしい)。ややもするとケイト・ブランシェット以上に女優として映画を支えていたティルダ・スウィントン。十代後半と思しき姿でダンス教室を訪れたピットの(本当に若き日のロバート・レッドフォードのような!)美しさ。また少女時代のデイジーの出演シーンはすべて感動的だ。
しかし、ここでも回想形式は結果的に失敗に終わっていると思う。とりわけ複数回にわたって現在と過去を往復する映画の場合、「虚実」のテーマを前面に押し出した『ビッグ・フィッシュ』並の作劇・演出上の戦略がなければ観客の感情をつかみつづけるのは難しい。
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