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[コメント] グラン・トリノ(2008/米)

ガレージでジジイの手垢のついた工具を目にしたときの高揚感、そして初めて自分の仕事道具を手にしたときの高揚感。いやぁ、やはりこの監督はダンディズムの全てを知り尽くしているのだと感じた瞬間であった。
パグのしっぽ

**ネタバレ注意**
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偏屈爺さんにとっての過去の悔恨への決着、そしてそこに投影される、監督自身にとっての西部劇への決着。作品の表裏に一貫する大きなテーマは「後始末」なわけだが、後始末のパートナーとなる往年の道具たちへの愛情がひたすらまぶしい。ライフルにライター、タバコ、そしてグラン・トリノなど、今まで多くの人々のイメージの的となり、結果としていささか古臭いイメージまで持ちつつある「愛器」達が登場し、でしゃばり過ぎないけれどきっちり役目をこなしてスクリーンの裏へ消えてゆく、その感覚に泣けた。また、「錆取り剤とレンチ、テープがあればなんでも修理できる」という爺さんの言葉には、道具に対する信頼と自身の技術への信頼が確かに結びついていることが感じられ、ただただカッコいい。そして道具は次世代の若者に引き継がれてゆく。人の技術を形作ってきた道具はそれ自体で人の生き方を表し、その道具を受け取った者は多かれ少なかれ先代の生き方を道具から学ぶのだろう。そういうダンディズム、素直に男として憧れる。私自身は根っからの事務系人間でタイヤの履き替えも十分に出来ず工具なんてドライバーくらいしか触ったことがないのだが、入社直前にホームセンターで千円で買った電卓にはやはり愛着があって、ボタンの反応が悪くなっても捨てずに使い続けていたりする。エコだエコだと言って最新のマシンに買い替えるのもいいけど、僕らが愛情を込められるのはシンプルで仕組みも原理も理解出来る道具なのではないか、とも考えてしまう。

(評価:★4)

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