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[コメント] グラン・トリノ(2008/米)

矜持の瓦解が露見となった作為が明け透けなBADイーストウッドムービー
junojuna

 物語としての強度を自作の強みとするイーストウッドにあって今回作はその矜持を瓦解させる弛緩の憂き目に逢ってしまった誤算の作である。傑作チェンジリングを受けての次作であったが、カタルシスを呼ぶのにあまりに小柄なモチーフで映画の完成として愚なる敷居に佇んでしまった残念な帰結であった。他に故なくイーストウッドであるうえでの映画として評価されうるとして、あまりにも隣人描写が軽薄でドラマの奥行きが乏しいという視点の拙さが否めない。本作におけるドラマトゥルギーの対比関係は民族的な血統を主題としている。が、その主題を浮き彫りにさせるプロットのあり方が、イーストウッド主体以外に語られないところに帝国主義的な不公平さがにじみ出ており、ドラマの完結のありかたに嫌らしいナルシズムが顕在するというマッチョな体格が噴飯ものであり、逆説的にその作為が危険な観念を想起させる点で納得しがたい。もはやイーストウッドにはマーケットの視点はないのかも知れない。かといって本作にはそれを超える創造物としての強度もない。総じて言えば、サラブレッドが扱ってはいけない主題なのだ。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)G31[*] けにろん[*] たろ[*]

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