[コメント] ターミネーター4(2009/米)
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『ターミネーター』シリーズ最新作。これまでのように現代の中にターミネーターが現れるのではなく、人間と機械の戦いのさなかを描いた作品となっているのが特徴で、これからジョン・コナー3部作の開始となるらしい(きちんと売れればの話だが)。 さて、それで本作だが、普通のSFアクションとして観る分には水準以上。演出に関しては全く問題なし。特に劇場の音響で観ると、腹に来るほどの重低音と画面いっぱいの迫力ぶりは拍手ものだし、かなり単純化されているとは言え、テンポもよろしい。素直に面白い作品だとは思う。
ただ、演出の良さというのは、今やSF映画にとっては当然のことで、その前提にあってどう話を作っていくかが重要になるのだが、その部分がなんとも薄い感じがしてならない。特にこの数ヶ月の間に私にとっても『ウォッチメン』、『スター・トレック』と言った、実に楽しめる作品を連発して観ていた分、本作のはまれ無さには閉口した。単体の作品としては良いんだが、『ターミネーター』の続編だからこそ、ならではの驚きを与えて欲しかった。言ってしまえば「そうだよ。これがターミネーターだよ」と、劇場を出るときに呟かせて欲しかった。
概ねにおいて本作が失敗とは言えないのだが、本作の場合、作品の根本的な問題が二つあると思う。
一つにはオリジナル版である『ターミネーター』との整合性を取ろうとした結果、物語がそれに終始してしまったということ。『3』で、未来は変わらないことを確認したのは良いが、その後、どうやって一作目につなげるか(あるいは2、3作につなげるか)で試行錯誤してる感じ。全体的な物語に矛盾こそ無いものの、単体としての物語では話の持って行き方が強引すぎる。本作の主人公はマーカスのはずだが、それと等分してカイルとジョンにも見せ場を作らなければならないため、話が最大三つに分裂してしまい、それぞれを掘り下げることができなくなってしまった。スカイネットが何故生きた人間を必要としたのかとか、ジョンを捕えるために仕掛けた罠の意味合いは何だったのか、それも全く描かれずに終わる。結果として物語および設定が非常に薄味なうえに中途半端になってしまった。「なんだこの程度の物語かよ」というのが観終えた直後の正直な感想。
そして第二に、キャラクタ描写の問題があり。
この作品観て、本当に残念に思ったのは、まさしく本作はベイルのために書かれた脚本だったということ。
ただし、ベイルは明らかにジョン役ではない。
ベイルは実に完成度の高い俳優で、どんな役もそつなくこなせる役者なのだが、その本領を発揮するのは、精神的にきつい役柄を演じる時にある。亡くなったヒース・レジャーばかりが言われるが、『ダークナイト』(2008)におけるベイルの苦難に満ちたヒーロー像はまさしくはまり役で、ストレートなヒーローではない、どこかねじ曲がったヒーロー役こそが彼には似合う。
本作は前述したとおり、半機械人間のマーカスが物語の中心だが、自分が機械の体であるとは全然思っておらず、途中でそれが分かった時、アイデンティティを保つために大きな苦悩が描かれる事になる。この姿は通常のヒーロー像にはならず、かなりの実力を持った役者に演じてもらう必要性というのがあるのだが、これがベイルにはぴったりで、この役をこそベイルにやらせたかった。
対する今回のジョン・コナーは、ストレートすぎるヒーロー像そのもの。勿論こういう役もベイルはそつなくこなすものの、どっちが似合う?と言われたら、間違いなくマーカスの方だった。最も似合う人間を別な役に就けてしまったのは、本作の最大の失敗だと思う。勿体ない使い方だ。
私なりに言わせてもらうなら、ジョン役にはもっと若い、悩みを引きずった人物を配置しつつ、あまり見せ場は多く取らず、マーカスとのやりとりでジョンが精神的成長を遂げる。と言った具合に持って行ければ、物語性も良くなったような気がする。
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