[コメント] カールじいさんの空飛ぶ家(2009/米)
「カールじいさんの空飛ぶ家」。原題はこれだけの凝縮されたドラマを湛えながらなんと2語の「UP」である。完全な邦題の勝利ともいえるそれだけイマジネーション豊かな傑作であった。本作のオフィシャルサイトのトップページに寄稿されたジャパニメーションの大家宮崎駿が感得したところの「追憶シーンだけで満足」という言葉も、冒頭わずか数十分で、決して説明的な言葉や、感傷的な作劇で語るのでは生まれ得ない豊穣なファンタジーを、類まれな映画文法で語ってしまう技術の巧さが光る仕事ぶりに、これはただ事ではないという圧倒的な魅力を伝えている。また、キャラクター造形には驚嘆の念を感じるキュートさ。これはヴィジュアル造形だけではなく表情豊かな声優の確かな演技力に支えられている。強いて言うなら、前述の宮崎駿が看破したごとく、前半の追憶シーンがアニメーションのヴィジュアルモーションとのバランスの中でそのドラマ性を揺るぎない世界観として完成させているので、中盤からラストまでにかけてのアクション描写がありふれた善悪の対峙の中に埋没してしまい少々物足りなさを感じてしまう向きもある。しかし、このプロダクションはラストシーンで、劇中あれだけ天真爛漫で懸命なラッセルに父がいないという配置は、この豊かなファンタジーを携えた世界観をもつドラマを締めくくる重みのある施しであり、その繊細で抜かりない手腕によって一筋縄ではいかない作家性を顕示してみせるなかなか奥ゆかしい逸品となった。ピクサー長編4作目である『モンスターズ・インク』にも忍ばせて見せたユーモアとペーソス。本作でそれを進化させたピート・ドクターは目が離せない映画作家である。
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