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[コメント] ラブリーボーン(2010/米)

こういうグラフィックを見てしまうと、文学がもたらしてくれる想像力の豊かさを思い知る。文章には映像喚起力があるが映画にはない。ビジュアルを具象として提示するのが映画の宿命だからだ。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この具象に何を込めるか。観客はそこから何を読み取るのか。これは感性のやり取りという意味でとても高度なコミュニケーションだ。

ピーター・ジャクソンがやりたかったことはわかる。時が凍結したシアーシャ・ローナンの処女性が核だが、それを引き立てる現世の描写がリッチなものとして感じられない。例を挙げれば彼女が撮影したポケットカメラのフィルム、それを一月に一本づつ現像するというその時間経過の推移がない。だから、この写真に犯人が写っているかもしれない、というサスペンス演出も十分には働かない。

ティム・ロビンスのような渋みのあるマーク・ウォルバーグのルックスだけは雰囲気があるが、苦悩する素人探偵の心の内は例えば「ゾディアック」に比べると数段落ちる。スーザン・サランドンのキャラはイライラさせるだけ。弟は序盤のエピソード以降は存在が抹消されるし、妹役のローズ・マクアイヴァーはもっと登用してもいいキャラクターのはずだ。

ローナンが連続殺人鬼を"my murder"と呼んでいたのは面白かったし、奴の歯牙にかかった少女たちの魂が、遺体が発見されることによって成仏される、という設定もいい。だから今生の別れでローナンがキスを求めるそのイノセントな恋愛感情にはグッときたけれど、ここを外すようでは映画監督辞めたほうがいいんじゃないのってところだからねぇ。「初恋のきた道」のチャン・イーモウさながら、ジャクソン監督はちょっとローナンを可愛がりすぎたのではないだろうか。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus 煽尼采[*] セント[*] 3819695[*]

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