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[コメント] マイレージ、マイライフ(2009/米)

確かにライアン(ジョージ・クルーニー)が説くように、結婚や家族には煩わしさがつきまとうのも事実であり、背負わなくて済むならそれもまた善しだ。ここで提起されるのは、そんな個人の価値感に根ざした幸福論ではなく、今、失われつつある敬意と礼節についてだ。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







〔ご注意〕以下、ほとんど全文ネタバレです。

煩わしい人間関係を嫌い、一見クールなライアン(ジョージ・クルーニー)だが、彼が解雇宣告人として成功を収めているのは、相手に対する敬意と礼節を欠かすことがないからだ。人生を左右する一大事をネットで通告して済まそうとするナタリー(アナ・ケンドリック)は、メール一通で恋人に去られ、自らもまた一通のメールを残し会社を去っていく。男を部屋に残して黙って去ってきたナタリーに、たとえ一夜だけの付き合いでも別れるときには、それなりの礼儀があるのだとライアンはさとす。そして、ナタリーの再就職ではライアンの推薦状が威力を発揮する。

ネットシステムの導入という解雇宣告に等しい仕打ちをうけ、人恋しさに駆られたたライアンは、あたかも他者に対する敬意と礼節を見失ったかのようにアレックス(ヴェラ・ファーミガ)の自宅を訪ねてしまった。まるでウエットな独りよがりの思い(ナタリーの幼稚な結婚願望と同じだ)が、ライアンの想像力と洞察眼を曇らせてしまったかのようだ。敬意と礼節を失ったとき、人は相手を傷つけ、自らもまた傷つく。自ら命を絶った女性とナタリーの関係もまたしかりだ。

解雇や失業という同時代的テーマに、家族への思いというウエットな人情をからませ、しかも軽やかさと爽やかさを欠かさずに、今の時代を風刺し、欠陥を突いてみせる。達者なジェイソン・ライトマンの手腕に、思わず立ち止まり自らの立ち位置を考えさせられた。

(評価:★4)

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