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[コメント] プレシャス(2009/米)

ふてぶてしく不敵な面構えの少女は、S・スピルバーグの『カラーパープル』にも似た処遇を両親より受けるが、彼女自身はそれを己の強かさと現代性ではね返す「大きな」娘だ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







近親相姦、及び家庭内暴力の渦巻く家に生まれ育ち、現在もなお続く責め苦に顔色一つ変えることもなく、少女は父親との情事により生まれた子供たちとともに自立してゆく。プレシャスは完全な破滅を前に、新たな知己との出会いの中から自分を高めるエッセンスを吸収することで、着実に成長を見せたからだ。

プレシャスは幼時より父親に女として求められ、翻って母親よりは連れ合いを誘惑する女として虐待された。だが、生まれたときからそんな扱いを受けてきた娘が、その不条理な運命に泣いている余裕はなかった。死んだ父親からエイズを移されたことを知ったときも、彼女はへこたれなかった。あの時代、エイズは死病であったにもかかわらず、だ。

そうした大きな娘に花ひらいた原因には、教師や学友との出会いの幸運もあった事であろう。彼女は苦境の中で捨てていいものと大切にせねばならぬものの区別を見極める能力を磨いている。そこが彼女を大きく見せる所以だ。もはや『カラー・パープル』は過去に残しておこう。アメリカには20世紀末にして、こんな大きく力強い娘が育っている。そして、その姿をストレートに描くことが歓迎される土壌もまた創り上げられている。彼女に倣って、我々も古い感傷を捨てよう。当たり前のことを当たり前に言うが、幸福とは己が手で掴み取ることだと信ずるヒトに、いずれやって来るものだ。

(評価:★4)

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