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[コメント] 武士道シックスティーン(2010/日)

近頃珍しい、正しいスポ根映画。とかく「楽しんだあげく勝てたらそれがラッキーじゃん」みたいな作品が横行する昨今、「楽しみつつ必ず勝つ」と大上段に振りかぶった少女物語は人間の物語として納得できる。と同時に、恋愛の相手ではない男性と、好敵手によって研鑽される構造は、図らずも男性的な構造をも成す作品である。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最後に書いた男性的ドラマツルギーについては、他の皆さんが詳しく記しておいでなので詳しくは述べない。ただ、女性原作の根性もの…例えば『エースをねらえ!』や『ガラスの仮面』に頻出するエロスの要素がここには全くなく、導師たるものは父親であり教師である点が物語の男性的構造を明らかにするとともに、ライバル間に内在する親しい関係がプチ・レスビアン的好奇心をそそるものになる。だが、これは少年漫画の最近の傾向に沿ったものなので、あまり擬似恋愛との見方を推し進めるのは誤解のタネともなろうし、追及は抑えておく。

成海璃子の倒錯的設定に夢中になってしまった自分からすれば、普通の女の子であることを隠そうとしない北乃きいに翻弄されつつも(ケーキの食べ放題に戸惑いつつ食らったり、勧められたサンダルを履くことを良しとせず裸足で歩き始めるシチュエーションにはスケベ心を動かされるが)硬派少女としての矜持を崩さない彼女にはある種の「安心」をもって眺めていたことを告白しておこう。『ピグマリオン』パターンで済ませず、北乃もまたただのお気楽少女から勝利にかつえるライバルに変貌させる物語設計にはプロの仕事を感じた。彼女と父親の力で変わった成海もまた、がむしゃらなだけの挑戦者から己を持った武道家となりえたのだから、北乃はきちんとした武蔵に対する小次郎となっているのだ。あえて言えば、最後の巌流島はグダグダな仲間内のじゃれ事に堕していたのが残念だったが、ここは目をつぶるべきだろう。ただし、北乃の描写からは小説にあるという「日本舞踊の心得があったゆえの成海への勝利」が完全に抜けていたのは残念ではあるが。

ともあれ、勝利を目的にした武道は決して恥ずべき結果には結びつかない、ということはスポ根衰退時代の現代でも事実である。それを衒いもなく描いてくれたことは嬉しかった。

そんなわけだが、まあいろいろと書き連ねてはきたが、実際のところその原動力は、自分の硬派少女へのあくなき溺愛にあるというのは正直なところだ。…って締めくくりがそれかよ!!

(評価:★4)

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