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[コメント] 運命のボタン(2009/米)

始まって十数秒も経過していない辺りで既に予想できた範囲から全く逸脱しない真相。『世にも奇妙な物語』レベルの紋切り型に過ぎないのだが、意味ありげで重層的(飽く迄「的」)な雰囲気だけは発散しまくる演出力は手応えあり。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「百万ドルと引き換えに、知らない誰かが死ぬボタン」というネタくらいは鑑賞前から予備知識として入っているので、冒頭の字幕で宇宙人絡みの匂いがした時点でボタンの裏の意図(=人類より上位の宇宙人による倫理的試験)は予想できてしまったのだが、ネタの出し方が妙に巧く、終盤まで謎めいた雰囲気が持続するのは立派。優しく紳士的な面立ちの片側が焼けて欠損しているスチュワートの容貌も効いており、作品のテーマをその顔が象徴しているとさえ言えるだろう。

だが、スケール感や奥行きを周到に演出された存在である彼が、チマチマと一軒ずつボタンを持って回っているようなラストシーンは興醒めだ。演出が重厚なだけに、超越的な存在である筈の宇宙人が、分かりやすい利他主義などという、あまりに人間的な価値観に執着しているのには違和感を覚える。結局、人間が有限な頭脳で、大した思索もなく抽出した倫理を、実際には実行し難いが故に、キリスト教的な神の代理人のような宇宙人を引っ張り出して自らの鞭となすという、アメリカのSFにありがちな凡庸な型が繰り返されているだけで、何の意味も無い。

全篇通してM・ナイト・シャマラン臭がプンプンするが、真相の意外性ではシャマランに軍配が上がるし、何よりシャマランの場合、真相の覆い方や、真実を前にしての人間の姿に切ない情念が込められており、単に鬼面人を驚かすテクニックではないし、また、本作のように詰まらぬ道徳臭を振りまいたりもしない。役者が違うと言うしかない。

(評価:★3)

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