[コメント] インセプション(2010/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
誰かが考えたトランプのオリジナルゲームをいきなり初めて、そいつからルールの説明を受けながらプレイして、1回目から面白いなんてことはそうそうないだろう。新しいゲームは通常、何回かやってみてルールが呑み込めて初めてそのゲームの楽しさ(なぜそのゲームが楽しいのか)がわかるものだ。本作の凄いところは、「階層と時間の相対速度の法則」、「トーテム」や「キック」とかいう、初めて聞くものばかりのルールの説明を受けながら1回目からしてそのゲームで多くの人を楽しませることができたということだろう。
SFならSFの、超常現象なら超常現象の、それぞれのジャンルのルールの蓄積があれば、共通の物差しがあり、それとの「整合」をとることでフィクションを楽しむことができる。ジャンルのルールとの整合は、誰しもが無意識に行っている行為だ。密室殺人の推理物を読んでて「犯人は幽霊だった」という結論に拒絶反応が起きるのは、それはミステリーのジャンルのルールと整合がとれていないからだ。
「夢もの」といったジャンルが一定数存在せず、したがって共通のルールがなく、本作限定のルールを立てつつも、「夢」でありながら不可解にならず、それとの整合を要求するタイプの作品として造り上げた腕前は見事なものだと思うが、やはりつまるところ「そいつのルール」でしかないわけだから、「ふーん、そうなんだ、それ君が全部一人で考えたの? へえ凄いね〜」というふうに、小学生の空想話を聞くことと対して変わらない感動しか起きなかった(実際小学生の頃のアイデアがもとになっているそうで、やっぱりなあ。。)。
物語の宿命というか、チコちゃん風に言えば「なんで人は物語を聞くのが好きなの?」という質問の答えは、人は「腑に落ちたい」生き物だから…らしい。本作より後の作品の『インターステラー』のように、同じ時間軸のズレをモチーフにしたものでも「ウラシマ効果」という共通の物差しを元に作られているものとは、腑に落ちるという点で天と地ほどの差を感じる。中にはフォークロワのように腑に落ちない後味のすっきりしない不安感を楽しむタイプの物語もあって、デビッド・リンチやコーエン兄弟の作品なんかは、そういう狙いがあるように思う。「夢」を扱いながらそういう方向ではなく、「腑に落ちる」物語として造り上げたっていう意欲は買うが、好き嫌いでいえば私にはあまり好きではなかった。私が理屈っぽい人間だからかも知れないが、それはどうしようもない。
もし「ホラー」や「SF」などというくらい「夢」がジャンルとして確立し、共通の物差しが前提のものになれば、その時こそこの作品の真価が発揮されるのだろう。「階層の時間差という設定をこれほどまでに活かしきった作品ってないと思う」とか、俺言いそう(笑)。しかもこのゲームやればやるほど奥が深そうだし。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。