日本でもアメリカでも（映画作品内で）極道の器を決定する踏み絵になるのは、最初の殺しである。事もなさげにその部分をクリアしてしまう主人公の菅原文太。『ゴッドファーザー』シリーズとイメージが重なる。

話内の時制ではほとんど刑務所の中にいる菅原。のほほんとした刑務所を描いた作品も最近公開されたが、やはり映画で出てくる刑務所というのは飯にがっつく彼の姿が示唆するように、ハングリーでなければ生き残っていけないところなのだろう。常に「狙う」側で在り続けられた菅原と、外の空気に晒されすぎたため「狙われる」側になった松方弘樹の対比は興味深かった。

ただマフィアの掟を中心に据え、ほぼすべての行動に合理的な理由を介在させ、緻密な人間関係を描いていく『ゴッドファーザー』シリーズとは異なり、本作はけっして緻密ではなく、深遠さとも程遠い。（例えば、警察に地図を投げ込んだことをわざわざ告白するわけがないし、そのあたりに気を遣わないわけがない。）ただ他の方もご指摘のように、雑多なもののみがもちえる独自の魅力が存在することは否定できない。北野武作品のヤクザが死に向かっていく「空っぽ」な存在であるのに対し、本作のヤクザたちは戦後の混乱のなか、必死に自分なりの活路を求め、這いつくばってでも生きのびていく存在として描かれる。かつては焦土で泥をすすりあった仲間たちが、いつしかそれぞれ道を違え、やがて対立していく構図。やはり戦後社会の一つの姿を映し出したエポックメイキングな作品であることに相違ないだろう。