[コメント] 英国王のスピーチ(2010/英=豪)
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良作であるのは間違いないが、全体的に盛り上がりには欠ける作品。実話ベースでかつイギリス王室を扱っている以上、当然の帰結であることは確かではあるが、ラストに来る「開戦スピーチ」までもその「波」の影響をもろに受けているので、なんともカタルシスに欠ける作品ではある。
このプロットでも、戴冠式を無難にこなすところを入れるだけで、だいぶ印象は変わると思うのだが予算の関係か劇中の映像でとりあえずこなした事を提示するだけなので、ジョージ6世(コリン・ファース)が少しずつ自信を深めていくような演出をつけられなくなってしまい、開戦スピーチの後で王として「急成長」したような印象を受け、文化を共有していない観客は置いてきぼりにされてしまう。
また、その点を解決したとしても、諸々の不可抗力の結果、ジョージ6世が王位を継承する事になったあと、なぜローグ(ジェフリー・ラッシュ)を変わらず重用するのかという点に関して描きこみが甘い。ジョージ6世と大司教とのやりとりで一応説明はつけているという事なのだろうが、エドワード8世とシンプソン夫人の結婚に際し「王室のありよう」に拘った彼が、なぜある意味ブラックジャック的なローグを周囲の勧めを撥ね付けてでも自分のそばに置くのかは明確にすべきだったと思う。
ただ、プロットに対して、劇伴などを使って無理に盛り上げようとしない姿勢は好感する。このストーリーに対して考えるのであれば、本作の演出方針は間違っていない。王が王であれば普通に行うべき仕事をしただけなのだから、それを過剰に「良くやった!!」としないのは正しい。
自分の役割を果たすために苦闘する男の話だから、ただただ天才が「より良い世界」のために突き進む話(『ソーシャルネットワーク』)より支持を集めたのだろうとは思う。その意味では良作ではあるが、題材に対して真摯であるが故の平板さのために「傑作」とは言い難い。ある意味もどかしい作品であった。
(2011.3.1 TOHOシネマズ上大岡)
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