[コメント] ヘルタースケルター(2012/日)
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『パッチギ!』のキョンジャたんが、あの後いろいろあって8年後にヌードデビューしたと思えばそそるんじゃね? みたいな、そういうゲスな視点でもって見られることを、この映画は全然恐れていなくて、それはすごく立派な姿勢だなあと思う。窪塚の起用と彼の立ち振る舞いはおそらく監督にとって会心のものだったはずだし、美術にもとことんこだわっている。自分ができることは全部やった、という堂々とした映画だと思う。
と同時に、蜷川監督の底が見えた映画でもあると思う。沢尻に対する演出プランはまるで一貫性がなく、りりこが虚勢を張っているときはいいのだけれど、泣きだったり怒りだったりという心が揺れるシーンになると、誰か別のキャラクターが出てきたのではないかと思うくらい、場当たりな演技が始まってしまう。ビルの屋上で「わたしもうダメなの」とか言って座り込んで泣き出すシーンなど、あまりにキャラが唐突すぎて、本気で劇中劇が始まったのだと思って混乱してしまった。演出家が「このドラマの中でのリアリティ」という線を引く作業をしていないから、大森南朋や寺島しのぶの芝居も上滑りするしかない。
そういう風に演出にプランがないから、物語も全然ドライブしない。本来ならこのお話は、りりこが完全に壊れてしまうバラエティ番組の収録シーンに向けて、徐々に盛り上げて(堕ちて)いかなければいけなかったはずだけれど、そこにいたるまでのそれぞれのシーンを、ちゃんと完全に成立させようとした形で見せられるので、まるでポスターを1枚ずつめくっていくみたいな変な感触の映画になっている。ちゃんと映画のゴールを設定して、そこに向けてトータルに演出していけば、もっと省略できるシーンやセリフはたくさんあったと思う。
たぶん、推測だけど、蜷川監督ってやさしい人なんだろうなと思う。『ヘルタースケルター』を沢尻でやろうよって話になったとき、きっと美術とレイアウトのことを最初に考えたと思うんだけど、それ以外の部分は、他の人の言うことをよく聞いたんだろうなと。プロデューサーがこの役者を使いたいと言えば使うし、沢尻がこんな風に演じたいといえばそれを聞くし、脚本家が書いたものはなるべく切らないし変えないし、みたいな感じで、悪い意味での「みんなで仲良くいいもの作ろうよ感」が透けて見えてきた気がしたんです。
この映画、バッサバサに切り倒して、沢尻のシーンはセックスしてるか泣いてるか以外は全部カットして、全部で90分くらいにしたら快作だったかもしれないと思うんですよ。
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