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[コメント] おおかみこどもの雨と雪(2012/日)

J( 'ー`)し
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 確かにこの作品、粗はいくらでもあるし、それこそ言いたいこともいくつもある。でもこれだけ画期的なものを作られたとあっては最高点付けざるを得ない。

 これ確か完全お母さん視点で描かれた唯一のアニメではないだろうか?

 私自身は主人公の花よりも息子の雨の方に感情移入して観ていたので、その辺客観的に考えるのが遅れてしまったが、少なくとも私が知っている限りにおいて、完全お母さん視点の劇場用アニメは存在しない(原恵一の『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)あたりはちゃんと親の視点も描いているけど、主人公はあくまで幼稚園児だ)。

 アニメにおけるお母さんは記号化された存在であるのがほとんどで、その存在理由は母性愛をもって主人公を守るような存在としか取られていない。母性を表すためにのみ登場し、メインの物語は主人公の側に任せるのが母親の存在意義だったと言っても良い。

 それに対し本作は、その「当たり前」な記号的存在であるお母さんを目的として存在させた。

 彼女にとってこどもとは、愛する人との間の結晶であり、夜泣きをすればそのために一晩中外であやし、病気になったらそのためにどうすればいいか、あらかじめ勉強する。こどもたちの成長のために良いと思ったことを積極的に行う。

 そこには自分自身の欲や新しい恋なんてものは存在せず、ただひたすら自らのこどものために働き、そしてこどもの成長を自らの喜びとしている姿に他ならない。

 これはいわば理想的な母親像であるが、それを主人公が行わさせているのがすごい。今までのクリエイターがやろうとしても出来なかったことなのだが、このような話は物語が単純にしかならないので、ヴァリエーションがつけにくいから。

 思えば日本のアニメは、そのほとんどが徹底したこども目線で描かれるのが普通。それこそそれが戦場を描く作品であっても、主人公は主に(青年期もそれに含め)こども目線で作られており、その目を通して観るのが普通のアニメの楽しみ方である。細田監督は、ここにきて完全に目線を変えて見せた。少なくともこれまで全くないジャンルを作り上げてしまった訳だ。たぶんアニメ史において現時点では唯一だが、これからとても重要な立場に立たせられる作品なのではないだろうか?

 ちなみに本作はそれだけの観方しか出来ないのではない。実際私自身としては鑑賞中は主人公の花ではなくこどもの雪と雨の方に感情移入しており、思春期を過ぎて大人になるまでの物語として観ていたし、特に雨の自立の過程はまさしくこども目線で見た親との関係の変化を思わせてもくれている。これはこれまでのアニメの視点なのだが、それでも充分観られる。

 それにアニメでこんなにキャラに感情移入したのも久しぶりだ。実際雨の自立の過程を自分自身に置き換えて観てしまっていたくらいだから。

 ただ、落ち着いて考えてみみて、これだけ主人公に母性を持たせた作品って、どれだけ画期的なのかということに気づいてしまった。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)tomonori ぴーえむ ユリノキマリ chokobo[*]

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