[コメント] 希望の国(2012/日=英=香港)
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地震に襲われ原発事故を起こした街の被災者たちのドラマ。
震災に遭いながらも、故郷を捨てられず被災地に留まる夫婦、被災地から避難しながらも徐々に迫る放射能の影響に恐怖を募らせ奔走する夫婦、連絡が取れない彼女の家族を捜索しに被災地に戻るカップルのエピソードを同時並行で描いている。
原発事故の影響で、二度と故郷に戻れないという問題や、震災に巻き込まれた家族の安否が絶望的という現実を突きつけられ、苦渋の決断を迫られる被災者たちの姿を描いた作品として見ればこの作品は、タイトルと対照的な悲惨な状況ぶりが上手く描かれており評価できる。
しかし、原発事故における街の人々の対応やマスコミの描写ぶりにリアリティを追求するとやや違和感を感じる。
例えば、この作品が福島の原発事故が遠い過去の出来事となった近未来が舞台なら、原発事故に対する政府やマスコミの対応に人々が違和感を感じない描写も説得力があるのだが、福島の原発事故も記憶に残る時代背景で原発事故に対する政府やマスコミの対応を街の人々の殆どが鵜呑みにするのにはやや違和感がある。
特に被災地から避難してきたいずみが放射能の恐怖の現実を目の当たりにし、翌日から防護服を着て生活を始める姿を、街の人々が変人扱いする描写があるが、この場合は街の人々も放射能の恐怖が生活に侵食していることは体感しているのだから、あからさまに変人扱いするんじゃなくて、いずみと同様に警戒する人々が増えるか、露骨に放射能を警戒して生活するいずみに対して、不安を煽られた街の人々が罵倒するようなシーンを作った方が違和感は無かったと思う。
この作品での原発事故に対する政府・マスコミの応対やそれを見た街の人々の反応の描写は、現実に福島の原発事故の報道の過程を見ている立場から見ると、原発事故に対する怒りの声とか、政府への抗議活動のような描写が無い分、現実感に乏しい印象で、せっかく被災した人々にふりかかる非情な現実の描き方に卓越したものがあるのに、その深刻さがあまり伝わらなかったのが残念。
ただ、慣れ親しんだ家を捨てられず、避難勧告という迫る現実に対し、苦渋の決断をする小野泰彦役の夏八木勲の渋い演技は型にはまっていてなかなか素晴らしかった。『冷たい熱帯魚』『恋の罪』もそうだが、園子温監督は演じる役者の演技と映画のキャラクターの型にはめるのがとても上手いと思う。
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