[コメント] 東京家族(2012/日)
「東京物語」が価値の大転換のなか過去との決別の時代(昭和28年)に人生の寂寥を描いた喪失の映画なら、本作は自信と希望を見失った暗く長いトンネルのような平成の世に、微かな光明を見い出す蘇生の物語だ。50余年の時空を超えて「今」を捕え直す巧みな翻案。
「東京物語」の戦死した次男の昌次は「失ったもの」すなわち過去の価値の象徴であり、その寡婦である紀子(原節子)もまた、周吉(笠智衆)にとって自らの理解者でありながらも、互いに相容れることのない「残された者の孤独」を生きる身であった。そこに漂うのは人生(時代)の寂寥だった。
本作のフリーター同然の昌次(妻夫木聡)は「いまだ成されざるもの」すなわちカタチの定まらない価値の象徴である。そんな息子に苛立つ、かつての教育者(=価値の伝授者)周吉(橋爪功)は自らが半生をかけて実践してきた「教育」の結果に戸惑いつつ、妻を亡くしてようやく昌二のなかに妻(吉行和子)の美徳であった鷹揚さ(俗っぽく言えば優しさだ)を発見する。そして、その鷹揚さは昌二によって紀子(蒼井優)へと引き継がれ(形見の腕時計!)ていくことに気づくのだ。
人生(時代)の寂寥の先に見い出された光明。「東京物語」が価値の転換と喪失の物語なら、「東京家族」は価値の消滅の後の創出の物語なのだ。
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