[コメント] 何がジェーンに起こったか?(1962/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ヘンリー=ファレルによる小説の映画化作。
映画の中には観ていてきつい作品というのがある。ゴアなホラーなんかは別として、私にとって家族同士のいがみ合いが描かれる映画というのは、どうにも落ち着かない気分にさせられる。しかも、それが度を超していくと、観てるだけで苦痛に襲われる。 そう言う作品の多くはどうしても点数を高く付ける気分にならないものなのだが(私がワイラー監督やヴィスコンティ監督作品で高評価が少ないのはその点にあるだろう)、時折とんでもないものを見せつけられて、「これは参った!」と降参してしまう場合というのもある。
本作はまさにそれ。特に前半部分のデイヴィス演じるジェーンによるクロフォード演じるブランチのいじめは度を超していて、「なんで私はこんなもの観てるんだろう?」とか思わせてくれたのだが(事実デイヴィスとクロフォードは私生活でも互いに嫌い合っており、これが唯一の共演作である)、それが中盤に入った辺りになると、きつさは増しているのに、目が画面からはずせなくなってしまった。観てるだけで辛い。しかし、辛くなればなるほど、二人の演技は凄まじいものへと変化していく。話が進んでいくと、デイヴィスの鬼気迫るような演技は、単なる嫌な奴を通り越し、痛々しささえ感じられてくる。この辺『サンセット大通り』(1950)のグロリア=スワンソンに通じる部分だが、それを更に極端にグロテスクにしてしまうとは、もの凄いとしか言いようがない。そして対するクロフォードは、最初から最後まで徹底的に痛々しい。ラストでその痛々しさを身に受けることを自分の過ちのせいであることを認め、それでも微かな抵抗で生きようと足掻く。これも又女優魂ってやつだ。
なんとも凄まじいものを見せてくれたが、よくぞこの二人を選んだものだ。アルドリッチ監督の慧眼は凄いものがある(既に半引退状態のデイヴィスをどうしても引っ張り出したかったアルドリッチは直接ニューヨークに合いに出掛け、3時間の説得を行ったそうだ)。
アルドリッチ監督と言えば、これまで私が観たのは『特攻大作戦』(1967)とか『ロンゲスト・ヤード』(1974)位で、どちらも完成度は高く、それで好きな監督になったのだが、どれもむしろ男臭さというのが面白い作品だった。対して本作は男はほとんど意味を持たず、二人の怪演ばかりで構成されるが、こんな作品まで作れたんだな…私に合わない素材でここまで見せてくれたのは、多分その手法の巧さがここでも遺憾なく発揮されたからではないかと思う。前半の限られた空間のみでの、まるで舞台劇のような演出がラストでの開放的な海岸に移り、最後は神の目からの俯瞰に移っていく。このカメラ・ワークの絶妙さも素晴らしい。
ほとんど精神的なホラー作品なのだが、ここまで徹底的にやられると、呆れを通り越して感動さえ覚えてくる。長丁場の作品で、終わった時は本当にほっとしたが、現実に戻るのに時間がかかってしまった。
本作も間違いなく私に“衝撃”を与えてくれた作品には違いない。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (4 人) | [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。