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[コメント] 風立ちぬ(2013/日)

二人の実在の人物の話を融合するというアイデアは悪くはなかったが、宮崎駿のストーリーテリング能力がそれを生かし切れているのかは、制作者側がもっとシビアに見るべきである。
Master

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ここ数作のジブリ作品に共通しているのが、ストーリーテリングがあまりにも軽視されていて、エピソードの羅列、もしくは記号の羅列に終始し、観客の興味を持続させる気が基本的になくなっているという事。それは宮崎駿の姿勢そのものではある。彼は自分のやりたいことをやりたいようにやることに全力を注いでいるだけ。

本作もその姿勢は踏襲されていて、ぶつ切りのエピソードを時系列だけを頼りに繋ぎ、スクリーンを観ればわかることを台詞に織り込み、観客を信用しているのだか馬鹿にしているのだか良くわからない映像情報と音声情報の羅列を2時間強制的に観させられるという、「行」と思わざるを得ない代物が出来上がっている。

クレソン好きのドイツ人が出てくるところ全体や特高から二郎がマークされてるエピソードとか冒頭の夢のエピソードとか、カットしても話成立しますよね?堀越二郎の「プロジェクトX」にしたくないってのは大いに結構。それならば伝えたいものが何でそれを効果的に伝えきるにはどうしたらいいのかってのはもっと考えるべき。

で、まあ、これまでの作品で基本的には踏み込んでこなかったベタベタの恋愛を描くという挑戦をした意気込みはある程度買っても良いと思う。しかしながら、大の大人が高校生でもやらないようなど直球と記号的恋愛事象の羅列で良しとした挙句、「きれいな姿だけ見せたかったのですね」じゃねぇよ!という話である。こんなのは『北のカナリアたち』の森山未來の咆哮と同じで、無理やり話を盛り上げているだけ。

本作、上手く立ち振る舞えば、大人の作品として名作になる可能性は十分あったと思う。それを「ちゃんとしたものを作る」気を失くした人間に全権を委ねた結果、残念な代物が出来上がったいう事である。

それでも興収は良いでしょうし、一般的な批評では絶賛される事でしょう。「ひこうき雲」名曲ですし。それが一番口惜しいのです。

(2013.7.20 シネプラザサントムーン)

(評価:★2)

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