[コメント] アメリカン・スナイパー(2014/米)
例えばクリスが狙撃手・ムスタファに狙われるテラスの場面で、鎖に繋がれた犬が急に出てきて吠える。これは面白い。また、砂嵐=騎兵隊としての見せ方についても、私はいいと思う。砂塵で画面を覆うのは、『アイガー・サンクション』を思い起こさせるし、スペクタキュラーの造型としても簡潔さが気持ちいい。
しかし、全体的に云うと本作もイーストウッドが本当に演出していたのか疑うような、周囲の入れ知恵と委譲の産物なのではないかと訝るような部分の多い作品だ。まず導入部の回想開けで幻滅する。まるで日本のテレビ番組のCM開けのように同じカット(と科白まで)を繰り返し見せるのだ。これには、ずっこけた。回想への「入り」はライフルのマッチカットだったのに。そして、もう一つ同じぐらいのレベルでがっかりするのは、やはり、多くの人が指摘する、クライマックスの銃弾のコンピュータ処理で、イーストウッドという人は、こゝまで屈託のない人だったのかと驚いてしまったぐらいだ。あと、帰国中の、PTSDの兆候を描いた部分にも違和感が多い。一番は、産婦人科で新生児の娘が泣いている場面。こゝは主人公の幻覚なのだと思うが、俄かには判別できない、とても曖昧な繋ぎになっている。或いはドリルの音を気にするシーンも中途半端だし、弟との関係性も放りっぱなし感が残る。
トム・スターンの撮影についても、さすがに室内のシエナ・ミラーへの照明はドキドキさせるカットもあるが、全体的には良さが感じられなかった。例えば良い空撮がない。クライマックスで包囲される建物を、空撮を模したコンピュータ処理の大俯瞰で度々提示するが、こゝも画面が分かりにくく、空間把握の助けにもならず、スリルの創出においてもほとんど貢献していない。
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