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[コメント] 野火(2015/日)

酸鼻極める戦場の描写は現代らしく接写を軸とした見事なものだが、「私を食べて」の主題は生煮えで余計ではないか。戦場を肯定さえするような文学的毒と監督の実直な反戦発言の差異に戸惑わされる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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日本では「海神丸」「野火」「ひかりごけ」「佐川君の手紙」と、カニバリズムは何度も小説に取り上げられ、映画にもなったが、私の受ける感想はどれもひどく似ている。この人食いという極限の状況において、自分という日本人の中に十戒の如き倫理観など見つけられず、むしろ生き延びるのは偉いことだという別の価値観がどこかで優勢になることだ。本作はこの感想に何も付け足してくれなかった。最後も何も喋ってくれないし。

本作はむしろ、単に愚直なリアリズム映画として優れている。見処はすでに関川や市川らが描いた線をなぞっているのだが、カラーで撮り直すだけでも制作の意味はあるのだと思う。自分の肉を口にする場面での縦構図など見事なものだ。小説「野火」はフィリピン人を描いていないと柄谷行人から批判されたが、映画はこれも踏まえており、フィリピン人も丁寧に描いている。それなら別に「野火」でなくてもよかったんじゃないかというのが率直な感想。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)おーい粗茶[*] DSCH[*] けにろん[*] ぽんしゅう[*]

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