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[コメント] ローサは密告された(2016/フィリピン)

この光景が主役だ。何でもいいけど、例えば『ブレードランナー』冒頭の屋台など、これからは本作のパロディに見えるようになるだろう。この際製作の時系列は関係がない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本物の迫力に勝るものはない。これがフィリピンの現実かどうか、判らなければ調べればよいしと思うし、そもそも、歴史や場所の一回性を捨象した映画に私は大して興味がない(正反対ですね、ゑぎさん)。

という訳でパンフ買った。印象的だったのが柴田直治氏の指摘。本作はドディルテが大統領に就任する前に撮られているのだが、就任以降なら「主人公一家や、登場する麻薬の密売人はその場で射殺されていたかもしれない」。大統領は映画にあるような警察をかばいさえしている、と。国の貧困率は21.6%、クスリなしに成り立たない生活とが構造的にある。

警察機構の描写はカフカの「審判」が強く想起される。おすましした高尚な作品よりずっとカフカに近いと思う。逮捕に令状はない。警察に裏口から入ると扉に応急の閂が掛けられており、中では子供が留守番していて(監督によれば、逮捕されたまま小間使いなどして警察に住み着く住所不定の子供が多いとのこと。この逸話が私には最も衝撃的だ)、賄賂が入ると「今夜はビールにチキンだ」と皆大はしゃぎする。何という猥雑な官僚世界。ラストを除いてローザたちの心理を説明しないタッチも報道調のカフカに近い。まともそうな警官たちとの差異が正門と裏門と往復により反復される。ローザたちにとってこれは天国と地獄の往復なのだ。シンボルがそのまま現前している世界に恐怖を覚える。

映画は疑似ドキュメンタリーが徹底している(ピンが合ってしまった後でわざとピンボケに戻す箇所まである)が、構図のつくりはとても丁寧で作家性がある。ただ、終盤は少しダレる。子供三人が金策に奔走する(実話らしい)辺り、物語の終盤としては拡散に向かい纏まりに欠けるし、最後のローザのスマホ質入れの件もメガトン級の何かがほしかったように思う。また、序盤の車中から眺める熱帯性の雨が生温そうでとても印象的なのだが、これは普通は終盤に取っておくんじゃないのだろうか。そういうハリウッド由来の物語性など本作にはどうでもいいのかも知れないが、それならそれでもっと積極的に物語性を排するべきと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ゑぎ[*] けにろん[*]

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