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[コメント] 若おかみは小学生!(2018/日)

昨今の頓珍漢と伝えられる道徳の教科書もこんなものなんだろうか(含『千と千尋』のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







神楽好きな若夫婦という導入からして違和感がある。昨今の保守的な若者はこんなものなのかどうか知らないが、全体を覆っているのは温泉町の現実逃避的な願望ではないのか。さらにはオリンピックへ向けての「おもてなし」気分の煽り立て。曰くありげな道徳の教科書っぽい。

本作に『千と千尋』の影響を見るのは容易いが、特徴的なのはそこからイロニーがごっそり抜き去られていることだ。廃墟のテーマパークは昨今あり得ないほど繁盛している温泉地に置き換えられ(しかもアジアのインバウンド皆無というリアリティの無さ)、両親が豚になる享楽は数々の高級料理と「2ランク上のモール」における着せ替えショーで無邪気に肯定され、千のハードで不条理な労働体験はマスコットガールに化け、どなたでも「おもてなし」とカオナシを迎える温泉のトタバタは交通事故の加害者の宿泊に置き換えられる。

このクライマックスは無茶だ。いったい、加害者は被害者の経営する宿屋に泊まれるだろうか。針の筵の一晩に違いなく、しかも被害者に泊まれと云われては断る訳にもいくまい。この病み上がりのお父さん、精神を病んでしまわないかと心配になる。このとき若女将の善意は一方的に暴走しており、他者への配慮を欠落させている(まさか加害者に復讐していた訳ではあるまいが、そのニュアンスまで仄見える)。

この善意の暴走は、頼みもされないのにアジア解放の八紘一宇に向かった旧軍の思想的背景である神道の「おせっかい」と余りにも似ている。神道は他者を抹消する。「誰もこばまない」温泉はこれを見事に表象している。ライバル旅館の跡取りまで取り込む、みんなが同じ「感動」を分かち合ったげな本作の収束は、差異の抹消を希求するものであり、何とも気持ち悪い。ここに欠落しているのは他者への配慮であり、それはカオナシを諫める『千と千尋』の主題ではなかっただろうか。本作はそこから激しく劣化している。

本作の美点は突然にリアルな交通事故の件のみ。何も面白くないギャグの連発は、小学校低学年はこういうので笑うものだという処で許容されるが、それ以上では全然ない。

(評価:★1)

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