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[コメント] 火口のふたり(2019/日)

ああ、いいセックスをしているなあ。そんな無我の快感が二人から伝わってくる。人が理性のしがらみを圧殺し、倫理を捨て去っても許される唯一の時間がちゃんと写っている。R18ではもったいない。ロマンポルノの呪縛から解放された、とても真摯で正直な肉欲映画。
ぽんしゅう

理屈ではない“充足”のために互いの体を貪るように求める賢治(柄本佑)と直子(瀧内公美)。人だって肉欲に抗えないケダモノの成れの果てに過ぎないのだという“どうしようもなさ”を肯定するということ。

それは、抽象的な「愛」などという誤魔化しを無化し、幼児のように「好き」という肉体感覚を素直に受け入れるということだ。だから二人が繰り広げる肉欲の発散は、どこか幼稚で、当然大人げなく、可笑しみすら漂わせる。この痴態こそが、まぎれもない大人の証しにほかならい。

物語が徹底的に肉体(作中では、体の言いぶんと表現される)に収斂した先に、突如「あらぬ世界」が立ち現われて一気に置いてけぼりを喰らう。なんと大胆で見事な飛躍だろう。戦争なんてしょせんは人間の業の一部なのだ。平成(令和ではない)の阿部定と石田吉蔵は、人智の及ばぬ“天地の言いぶん”に、ふたりの“体の言いぶん”をゆだねるのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ジェフリー少将 3819695[*] けにろん[*] ゑぎ[*]

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