[コメント] レ・ミゼラブル(2019/仏)
まだ汚れていない“怒り”ほど恐ろしいものはない。主義や信仰や損得に根ざさない心の怒りに対して、私たちは、その純度に圧倒され成すすべなくたじろぐだけだ。炎に浮かぶ少年の傷痕は、大人たちの不徳の証しであり、社会の“恥”の刻印のように、私には見えた。
貧富の格差は経済原理による上下の亀裂。言語/習慣の差異は文化による水平の亀裂。ふたつの亀裂が絡み合い、吹き出す矛盾を権威と権力で強引に繕う「持ちつ持たれる」の危うい世界の縮図として、この「レ・ミゼラブル」の町が描かれる。
市井の経済を仕切る黒人グループ。猜疑心に満ちた独立独歩のムスリム集団。警官と裏で結ぶ麻薬密売一味。被差別者の敵意に満ちたロマのサーカス団。そして、それぞれの事情を垣間見せる二人の白人と一人の黒人警察官チーム。そんな、状況の厳しさと馴れ合いの混沌の先にラジ・リ監督は、なににも属さない純粋の怒りを「世界の怒りの根源」として浮かび上がらせる。
「よくおぼえておきなさい、世の中には悪い草も悪い人間もいない。ただ育てる者が悪いだけだ」というビクトル・ユゴーの言葉に託し、少年たちの人生はまだ始まったばかりなのに、彼らには「未来があるはず」なのに、と戸惑いの祈りをこめて。
監督の言によると、本作は(ペペロンチーノさんの慧眼どおり)3部作の1本目だそうです。次作以降の展開から目が離せなくなりました。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。