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[コメント] 騙し絵の牙(2020/日)

企業内のパワーゲームものとしてグイグイ引っ張ってくれる抜群の面白さ。だけど着地がうまくいってないような。。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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老舗大手出版社を舞台に実力者たちが覇権を争っていく。全然想像していた内容と違っていたけどめっちゃ面白かった。策士速水と、本が大好きな若手編集者高野恵が、それぞれの知恵と力で、ライバルを一人また一人と陥落させていく快感。営業部あがりの東松、文芸誌を死守しようとする宮藤、大御所作家二階堂、みな有能な人物であり、それぞれ一家言ある人物という描き方がいい。加えて、期待の新鋭矢代聖、モデルだが実は裏の顔はミリタリーオタクの城島咲、謎の失踪をとげた伝説の作家神座、恵の父の個人書店を経営する父、文芸評論家の久谷と、粒ぞろいの脇役たちをはまり役の演技達者な俳優たちが楽しそうに演じていて、作品をとても面白いものにしていると思う。凡庸な二代目と思わせて実は「牙」だった御曹司の描き方もよかった(デスクの後ろにデジタルドラムが何気なくおいてあるところとかこういうちょっとした凝り方もいい)。

ただ最後のほうで、高野恵が速水をうっちゃるところのうっちゃりがうまく決まっていない気がする。これって「(自分を巻き込んだのは)偶然ですよね?」という、高野の台詞が 示唆するような速水に騙された感が薄いからだと思う。速水は高野の才能を買っているからこそ企みに加わらせたわけで、この高野の才能を愛しているところ、そのことは十分わかっている高野という2人の信頼関係にある間柄と、その進むべき道の違いからの決別が台本的には語られているのに、十分な尺がとれていない、つまりタメがないような感じだ。なので神座の新作を持っていかれて、屋上でコーヒーをたたきつけて初めて感情を露わにする速水の口惜しさがイマイチに思える。わかりやすくいえばこのシーン「あいつやりやがったな」と速水がニヤッとするくらいで落ち着くような感じなのだ。だからその後の、刑務所の城島咲に仕事の話をもちかけ、どっこい速水は終わってないぜ、っていうのも肩透かしな感じになってしまった。

松岡茉優の演技感というか演技勘は素晴らしく、自分を呼ばれた時に少し目だけは別のものを確認しておいて、やや間をおいて「はい」と返事をする仕草や、二階堂相手に酩酊しながら、かろうじて正気を保っている仕草などのニュアンスが、外からじゃ演技のつけようがない絶妙さがあって、やはりすごい俳優だと思う。自分がこの作品での彼女の一番良かったシーンは、矢代聖の正体が明かされて完全に自分が嵌められたことがわかった場面で、隣で高野にあやまる宮沢氷魚に「で、お前は誰なんだよ」というタイミング。まさに大多数の観客の心のツッコミとジャストでシンクロしていて、こういうのの気持ちよさといったらない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)緑雨[*] けにろん[*]

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