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[コメント] サマーフィルムにのって(2021/日)

これはビート板の視点で再構築して欲しい。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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盛り込み過ぎというぽんしゅうさんの見解、主人公のセカイ系だから切なくなれないというペペロンチーノさんの見解に納得。

これは監督のいいところでもあるし悪いとこなのかも知れないけど、結局みんないい人に描きたかったというところ。それの悪いところは、それがドラマと主人公にとっての都合がいいという印象につながるからだ。上映中ラストを中断して4Dで上演するくだりの、観客の盛り上がりに特に感じる。あのセカイに対しての周囲の甘甘な感じが嫌だ。いっそ観客が誰もいなくなっても作品を撮り続ける主人公たちというのでもいいくらい。ちょっとでもいいから突然の中断に冷たい反応を見せる観客が出て、そのうえでただならぬ気迫に結局成り行きを見てしまう観客の「なんだかよくわからないけど凄い作品だった」というカルト的評価で未来に知られていく、という感じが自分にはしっくりくるかな。

良いところは、みんなをいい人に描く=きちんと一人一人を見てあげている、という点。ブルーハワイやビート板の心のうちもきちんと触れているところは、1時間30分の中では大渋滞ではあるけど、ただの書割で終わらせたくないというこだわりを感じて好印象。それにくらべて男子登場人物たちは雑だけど笑。

正直にいうと最初からハダシよりもSFオタクのビート板に釘付けでありまして。一番最初の胸アツポイントは、校舎裏で未来人の凛太郎にどう振る舞うべきか的なアドバイスをしている場面。ほんのワンカットなのに、何か秘密を共有している感が出てていい。実は現代世界で凛太郎が最初に頼りにしていたのが彼女で、作品にまったく描かれていないけど、衝撃の未来人告白からの凛太郎とビート板の2人の時間が存在している。そしてそこにこそ恋が芽生えていたんだって思うと、これこそキュンでしょ(来年自分還暦だけど)。

「彼の秘密を知っているのは私だけ」の視点から、この映画作りを頭から見直してみたい。親友の情熱だけは人一倍でいつもドタバタしている姿に苦笑しつつも、レンズ、じゃないスマホの画面越しに見つめている俳優に恋心を高めているカメラ女子。これこそキュンでしょ。そして誰も客がこない文化祭の展示も、実はせっせとやっていた(まったく何もしていないとは思わないのだが、あれだけ映画作りに時間を割いていて天文部の活動はちゃんとやってたのか作品からはわからないけど)のだと思うと切ない。切なすぎる。そんなことをハダシも凛太郎も知らないのだ。天文部の展示の部屋でハダシが凛太郎と話をする際に、発表の模造紙が貼られた壁に無意識に寄りかかりそうになるのだが(寄りかかりはしないけど)、そんなふうに無関心にただの壁として扱われる、天文部の情熱が切ないよ、むしろ。その場面たまたま展示の様子を見に来たビート板が目撃したらと思うと2重に切ない。監督がなまじ彼女にも焦点をあてたからこうなった。いっそただの設定の薄い脇役として描いてくれりゃよかったのに、とも思う。

余談だけど、ビート板のタイムスリップの説明の場面で、5種類のタイムパラドックスのパターン分けが黒板に書かれていた。〈1〉祖父殺しのパラドックス〈2〉ブートストラップパラドックス(ハインラインの「時の門」)〈3〉宿命的パラドックス〈4〉行動制限パラドックス〈5〉多元増殖と書いてあった(ちょっとうろ覚え)。〈1〉と〈5〉は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、〈2〉は『ターミネーター』、〈3〉〈4〉は『戦国自衛隊』とかかな。これについては、ちょっとネタを深堀りして欲しかった。で、この作品どれに該当するのか言及がない笑。結局、この映画の凛太郎の立場はどうなん? ヤバイですよ、とか言ってる凛太郎の友人の台詞、何がどうヤバイのか、ここはビート板にくいついて欲しいところ。

その友人が最後にちゃっかり過去にやってきちゃったりして、それを見つけてビート板が作品一の笑顔を見せるのは、新しい恋の予感ってことでしょ? 監督、もうアナザーストーリー始まっちゃってるんですけど!

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)死ぬまでシネマ[*] ぽんしゅう[*]

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