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[コメント] サマーフィルムにのって(2021/日)

セカイ系ビューティフル・ドリーマー。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







おそらく監督は、映画(映像)に対する危機感を抱いているのでしょう。 ド腐れキラキラ映画ばかりが全国上映され、本格派よりお手軽胸キュンがもてはやされ、思考を必要としない短絡的な短編動画が主流となる。好きを好きと口にしないのが映画の魅力なのに、逆に好き好きしか言わないアバンギャルド感。監督が言いたいことは痛いほどよく分かります。

こうした風潮、特にド腐れキラキラ胸キュン厨房デート映画なんか、我々世代にとっては『斬る』対象なのです。斬られりゃ痛えぞ!しかしこの映画は「共存」の道を探ります。 時代ですね。

他にも、監督達は女性で、男はそれに振り回される召使いというのも現代的です。 『アナ雪』がそうなんですよね。あの映画、男ども全員が全員、女性のための道具にすぎない。

「何読んでるの?」「ハインライン」という台詞から、すわ「宇宙の戦士」か?『スターシップ・トゥルーパーズ』なのか?はたまた「月は無慈悲な夜の女王」か?と思う間もなく(<思うなよ)あっさり『夏への扉』が提示され、早々に『時をかける少女』も提示されていることから、あータイムトラベラーなのね、このイケメンが高柳良一こと深町君なのね(<逆だ)と、これまたあっさり分かってしまいます。 しかしそこは肝ではなかったようで、早々にネタバラシします。冒頭に書いた通り「映画・映像が軽んじられている」という監督の主義主張のための道具立てにすぎません。

んー、もしかすると、この『サマーフィルムにのって』というタイトルは、「夏への扉」を意識した(もじった?)タイトルなのでしょうか? ただ、ゑぎさんも指摘されていますが、いまいちピンとこない。 わざわざラストにもタイトルを出すからには、「なるほど!そういう意味だったのか!!」と思わせなきゃいけない気もします。私が気付かないだけかもしれませんけど。

自主映画を撮っていた身からすると、それほど「あるある」でもない。 自主映画あるあるは細野不二彦「あどりぶシネ倶楽部」というマンガに全て描かれているんですよ。 監督はレンズを通して主演女優に恋をし、告白してフラれる。これ、あるあるだと思うでしょ?真のあるあるはこの先なんだ。フラれた後に編集作業が残ってるの。フラれた女の映像を泣きながら編集する。これ、自主映画(監督)あるある。

この切なさがこの映画には欠如していると思うんです。 切なさの餌はたくさん撒いてるんですよ。でも切なくない。真に迫ってこない。

その原因は「セカイ系だから」というのが私の見立てです。 個人の狭い世界が未来の(映画の)危機に直結してしまう。「社会」という中間世界がないんです。親も部活顧問も担任も、大人は誰ひとり出てきやしない。 『ビューティフル・ドリーマー』や『モーレツ!オトナ帝国』は「大人不在」に意味がある。押井守や原恵一は、大人不在という「SF設定」が物語の軸であることを心得ている。 でもこの映画の大人不在は「ご都合主義」でしかない。

これが大学生ならまだいいんですよ。 でも高校生って、大人との関係(というか枷)が「生きる世界」だから、その葛藤の中で青春物が成り立つと思うんです。『アルプススタンドのはしの方』も『のぼる小寺さん』も多少なりとも教員が存在し、ただ登場するだけでなく、見守ったり導いたり反面教師であったり大人の存在意義がある。 ああ、だから「大学生の青春物」ってないのかな。『サマータイムマシン・ブルース』くらいしか思い付かない。

そうした社会という枠(枷)を取っ払うとどうなるかと言うと、主人公のご都合主義で構築された「セカイ」になってしまう。その結果、「実は全部彼女の妄想でした」「夢オチでした」「ちゃんちゃん」って言われても納得しちゃう。だって全部彼女の「理想郷」だからね。いやむしろ妄想の方がすべて辻褄が合う。何だよ、河原の廃車の秘密基地とか。 つまり「ご都合主義の妄想」に見えてしまうから真に迫ってこない。切なくない。 劇中「誰かの物語に割く時間がない」といった台詞がありますが、リアリティを持った「誰かの物語」は「私の物語」になり得るのです。しかしご都合主義の「他人の夢セカイ」は面白くない。私の物語にはなり得ない。斬られても痛くない。

ただ、ラストバトルは悪くないんです。アクションがかっこいいだけでなく、登場人物の気持ちも乗っている意味のあるアクション。バトルの必然性がある。むしろこれをやりたくてこの映画を撮ったようにさえ思います。それはそれで悪くない。この監督の「JKでチャンバラやりてえんだ!」って気概すら感じる。

万一これがグダグダだったら「お前、今まで何を時代劇を語ってたんだ!」と怒ってましたけどね。

(2021.08.18 池袋グランドシネマサンシャインにて鑑賞)

(評価:★3)

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