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[コメント] ウエスト・サイド・ストーリー(2021/米)

「スピルバーグの最高傑作」という惹句は、大げさだと思うが、普通に「傑作」としか云わなかったとしたら、宣伝としては、控えめに過ぎるだろう。それぐらいの出来だと私は思う。
ゑぎ

 私もどうしても、ワイズ/ロビンズ版と比較してしまうのだが、結論から云って、本作、スピルバーグ版の方が勝っていると感じた(それは映画の何を重視して見るかによって違ってくるでしょう)。

 まずは、すべてのシーンの舞台(背景・美術装置含む)のスケールが、大きくなっている、映画的になっている、その演出効果に感心し続けながら見た。スピルバーグの統率力を見せつけられる思いがした。

 例えば、体育館でのダンスパーティにおける、幻想的な光の扱いは増幅されているし、「America」は、ビルの屋上じゃなく、街中での大掛かりなモブシーンだ。「Gee, Officer Krupke」は警察署内で、屋内だが、カッティングが凄い。「One Hand, One Heart」を準備するために、トニーとマリアは地下鉄に乗って、ハーレムの先のクロイスターズ美術館(シーゲルの『マンハッタン無宿』にも出てきた)へ行くのだ。さらに、「Cool」の場面は背景が海に張り出した桟橋?という舞台になっている(アイスじゃなく、トニーの唄い出しに変更されている)。そして、「I Feel Pretty」は、デパート内の婦人服売り場を舞台とする(マリアの職場のようだ)。

 ただし、ヤヌス・カミンスキーによる(スピルバーグのディレクションでもあるだろう)スポットライト的な逆光の取り入れについては、見事なデザインだと感じるカットも多数あるが、ちょっとやり過ぎていると思う。塩の倉庫でのナイフ対決の場面なんか、正面から射し込む光が、私には邪魔で仕方が無かった。

 あと、リタ・モレノの扱い。「Somewhere」の独唱場面が与えられている、というのも、とても嬉しい。彼女から、アニータ役のアリアナ・デボーズへのディゾルブ(確か2回ある)を見た時点で、こゝが全編のハイライトかも、と思うぐらいに興奮した。しかし、アニータとマリアの場面、「A Boy Like That」から「I Have a Love」へと繋がるシーン、こゝがタマラン良い場面なのだ。このスティーブン・ソンドハイムの歌詞、あるいは、このシチュエーションを歌曲にする、ミュージカルナンバーにする、ということ自体に感動する。人を愛したことがある、あなたなら分かるでしょう、と云う部分がタマラナイ。この後、ドクの店へ一人乗り込むシーンを含めて、アニータの心の揺れを表現するデボーズの演技演出も最高。やはり、このアニータという役は、もとより良い役なのだが、本作におけるこの成果は、演出家の功績と云うべきでしょう。

 尚、演者それぞれについては、見る人によって好き嫌いがあるでしょうね。マリア−レイチェル・ゼグラーはアングルによって(特にアップは)濃すぎるルックスだと思ったが、バストショットは可愛く見える。トニー−アンセル・エルゴートもよくやっていると思うが、彼のダンスには失望するシーンがありました。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)緑雨[*] 死ぬまでシネマ[*] 袋のうさぎ

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