コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ベイビー・ブローカー(2022/韓国)

誰も知らない』で取り上げた育児放棄問題へのアンサームービーだと思った。「捨てるなら生むな」という批判は、問題の責任を母親に押し付けて目の前の現実から逃げているだけの言いぐさで何の解も導かない。とは言え“感謝のファンタジー”ではことは済まない。
ぽんしゅう

とても優しい物語だった。「子供は誰のものでもない。社会のものだ」と是枝裕和は言う。当然すぎる帰結だ。だからこそ、その先への言及が必要なはずだ。

日本初の赤ちゃんポスト(嫌な呼称だ)は2007年に熊本の慈恵病院が開設した〈こうのとりのゆりかご〉だ。そのとき病院に向けられた「子捨てを容認することになる」「母親の育児放棄を助長する」といった批判は、いまだに根強く残っている。だが、〈こうのとりのゆりかご〉は子どもの命を救うセーフティーネットとして機能し続け、事実として2021年までに160人以上の子供を受け入れてきたそうだ。

2019年に慈恵病院は、母子の危険を伴う孤立出産を防ぎ病院で安全に出産できる制度として「内密出産」を独自に導入する。これは女性が病院にのみ身元を明かし情報を保管して将来的に子どもに開示する仕組みだが、熊本市長が市長権限で戸籍を作るという例外的で緊急避難としての色合が濃い制度のため法的基盤に曖昧さが残っているという。

内密出産について厚労省は「児童福祉法や医師法など厚労省の所管法令には直ちに違反と考えられる点はない」と回答したが、法務省は刑法上の犯罪に当たるかどうかについて「捜査機関により収集された証拠に基づき個別に判断されるべきだ」と回答したという。

韓国の制度がどうなっているか私は知らない。合計特殊出生率は日本より低いと聞いたことがある。“生まれてきてくれてありがとう”“子供は社会全体で育てる”という理念を否定はしないが、問題はもっとシビアな制度のレベルで語られる状況にあると思う。『それでもボクはやってない』を思い出していた。いま『誰も知らない』のアンサーとして必要なのは、もっとロジカルな映画なような気がした。

本作では決して少なくない登場人物に、それぞれの背景を準備して“子供への思い”を散りばめます。映画がロジカルでないぶん、その思いが過剰な要素となって話の焦点が絞れず、ぼんやりとした優しすぎる映画になっているように感じました。

(評価:★2)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)緑雨[*] けにろん[*] ペペロンチーノ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。