[コメント] 3つの鍵(2021/伊=仏)
まずは、冒頭の事件の連打、畳み掛けの演出で一気にプロットに引き込まれる。緩急の緩もよく、自動車が激突し大破した壁の内側(屋内)に、小さな女の子、フランチェスカが佇んでいる見せ方なんかも、とても上手い。さらに、この後すぐに、出産シーンを繋げる、というのも唸ってしまった。いや、もっと云えば、クレジットバックは原題タイトルロールの大きなアパート(高級マンション)、その玄関側の正面ショットだったが、監督名のクレジットの直後に上階の窓に灯りが点く。この時点で、あゝ丁寧な仕事、と思った。
さて、本作は、この3階建ての建物に住む4つの世帯(3つではない)の住人達の、冒頭事件を契機に生起する交錯を描いたプロットだと云えると思うが、どんどんイヤらしい人間関係を繰り出して見せつけて来る作劇で、途中で辟易すると思いながらも、面白くて仕方がなくなってしまうのだ。自動車事故を起こしたアンドレアとその父母(特に父親−ナンニ・モレッティ)との関係、壁に穴を開けられたルーチョ−リッカルド・スカマルチョと、ルーチョの娘フランチェスカを預かってくれた同じフロアに住む老夫婦(お爺さんはレナート)との関係、またレナートの孫娘−チャーミングなシャルロット−デニーズ・タントゥッチとルーチョとの関係、そして、冒頭で出産シーンのあるモニカ−アルバ・ロルヴァケルと不在がちな夫−アドリアーノ・ジャンニーニとその兄との関係。これらが、どんどん泥沼化していく展開が、狡猾といっても良いぐらい、見事に描かれている。また、いよいよ修羅場か、という瞬間に、5年間時間をジャンプさせてしまう処置も、憎たらしいが上手いと思う。
カメラワークで目立つのは、人物の会話シーンでの、非常にゆっくりとした前進ドリーショットで、本作の場合、これにより、会話する人物の心の奥底に徐々に迫っていくような感覚にさせられる効果が出ていると思った。また、前半は、例えば、レナートの家からフランチェスカを引き取るシーンなど、意味不明なアクション繋ぎというか、ポン寄りが目についたが(こういう演出ってヨーロッパ映画らしい)、後半は見なくなる。このポン寄りも、前半の混乱した状況を表象させる意図があったのではないかと私には思える。
また、多くの人物の中で、モニカだけは異質の存在だ。彼女だけが幻影を見たり、逆に彼女が幻影となって出現したりし、画面に不穏なものを持ち込み、観客の不安を掻き立てる役割を果たしていると思う。ただし、終盤は、アンドレアと母親のドーラ−マルゲリータ・ブイ とのプロットの比重が高まり、ドーラがいくつかの良い場面を導いてくれ、最終的に穏やかな収束を迎えるのは満足感のある展開だろう。路上のタンゴダンサーたち(ゲリラ・タンゴ?)の優しくつつましい画面も落ち着きがいい。エンディングに至るまで、全編緻密に考え抜かれた、クレバーな演出の映画だと思う。
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