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[コメント] リボルバー・リリー(2023/日)

これは完全にファンタジー。また、綾瀬はるかを愉しむ映画。とにかく顔面がカッコいい。そのほとんどのショットで、いい顔!と思いながら見る。ファンタジーは、緑魔子の老婆も強化する。
ゑぎ

 一方、ミニマルな登場人物による壮大なホラ話とも思う(そこがファンタジーでもあるが)。陸軍も海軍も一人の大佐レベルで回っているような作劇だ(彼らの執務室は広すぎないか?)。東京のヤクザ−佐藤二朗が陸軍の陰謀に関わるのも、清水尋也の存在(及び行動原理)も、組織的でない。

 開巻前に幣原機関と小曾根百合−綾瀬についての説明の文字が出る。次に滝田洋裁店の屋内。画面右に綾瀬が腰掛けているショット。窓から、通りを歩く人が見える。野村萬斎が主人の滝田か。白い生地を出してくる。あと一週間あれば服が作れると云う。あゝ、この映画は約一週間の話なのだなと思う。綾瀬が大きな通りに出ると銀座か。このワンカットだけで、かなりのお金がかかっている。

 続いて秩父のシーン。あるお屋敷の女中たちも含めて全員殺される。斬首と射殺。殺し屋たちのリーダーはジェシーだ。この屋敷の息子だけ、床下に隠れて難を逃れる。これが、羽村仁成。彼が本作のもう一人の主人公。悪役としてのジェシーについて書いておくと、この人がもう少し魅力的なディレクションを付けられていたら、この映画は随分と変わっただろうと思わせられる。

 そして、玉の井。長谷川博己が歩く。「ぬけられます」と書かれた門。もちろん、よく知られている通り、抜けられない。どん詰まりには、シシド・カフカのカフェがある。娘は古川琴音だけか。その2階には、綾瀬の客で佐藤が来ている。佐藤だけ異質な演技をするが、私は、これはこれで面白いと思う。特に、佐藤の組事務所に拉致された羽村を助けるため、綾瀬と長谷川が乗り込んで来たシーンでの佐藤の演技は、戯画化し過ぎなきらいはあるが、怪演だと思う。このシーンの耳打ちは何だったんだろうと思うが、多分そういうことだろう。

 中盤の見せ場である、シシド・カフカの店の前での陸軍との銃撃戦や、その後の長谷川の事務所での潜伏(及び暗号解読)のシーンなんかは随分といい加減だと思う。あるいは、2回ある、川と川船の合成シーンのCG処理なんかもイマイチだ。しかし、良いシーンもある。例えば、田舎の寺で、羽村の持っていた写真から、羽村の父親−豊川悦司の秘密が明かされる場面の後の、林の中での綾瀬と長谷川の会話シーン。横に伸びた木の幹を取り入れた画面の構図なんかはとてもいいと思った。

 あるいは、終盤、野村の洋裁店で白いドレスを着た綾瀬が、早朝、凄い霧の中、陸軍と死闘を繰り広げることになる、この霧の造型は、本来一番に書くべきと思うくらい本作の良い部分だろう。ただし、この大殺戮の場面が、悲しみに満ちた殺戮であることは、映画として倫理的でないと思う(喜びに満ちた殺戮であるように作劇する方が、映画として倫理的であると思う)。ただし、山本五十六大佐−阿部サダヲが一番の悪役にも思えるような描かれ方をしている複雑さは、本作の美点だろう(大殺戮は、ある意味、山本五十六の所為ではないか、さらに、大東亜戦争の阻止に関する言質)。

(評価:★3)

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